第29話 スシバトルクラブ⑤
前回のあらすじ:
シャコの握りに必要なツメがない鳥路さん。松風鮨のツメに対抗する術はまだ見つかっていないが、寿司同好会のメンバーはとりあえず市場でシャコの調達に。
◆◆◆
早朝五時半、普段ならまだ寝ているような時間に市場に来た俺達。活気に溢れた空間に放り込まれることで自然と眠気が飛んでいく。
「ねっむーい……もうこの時間からみんな働いてるんだねぇ」
あくびをしながら賀集さんが周囲を見渡す。学生もそれなりに朝は早い方ではあるけど、それ以上に早い人達がいるのだなぁと再認識した。
「あんまり離れないでね。高校生だからそこまで心配してないけど」
司先生が俺達をまとめる。迷子になることはないだろうけど、人混みに飲まれて見失ってしまいそうな感じは確かにある。気を付けよう。
「司先生。あそこのシャコが良さげ」
鳥路さんはいつもの調子でお店の方を指差す。朝強そうだよなぁ鳥路さん。
俺達は早速鳥路さんの選んだお店に向かった。
「春のシャコだと子持ちのメスが狙い目かしらね、まだ数は多くないと思うけど……色が鮮やかで、持って重みがあって張りの良いものを選びましょう」
鳥路さんが店員に許可を得てからシャコを持って目利きを始める。シャコは生きているようだけどキンキンに冷やされて動きは鈍そうだ。
シャコを裏返すと子持ちかどうかはすぐにわかるけど、パッと見ただけでどれが良いシャコなのかは俺にはよく分からない。俺が悩んでいる間に鳥路さんは良さそうなシャコを次々と取り分けていく。
……何匹必要なんだ? 練習用と本番用はあると思うけど、本番で何人前用意するのかそう言えば教えてもらってないな。
「お、おう、嬢ちゃん達! シャコばっかりそんなに買ってどうするんだい?」
取り分けたシャコが山積みになってきたところでお店の人が用途を聞いてきた。
「寿司にする。私が捌いて握る用」
鳥路さんは手を止めずに答える。
「自分で!? はー! 最近の子はすごいねぇ!」
スシバトル用とは流石に言えないよな……
「シャコって他の店にもあります?」
司先生が店主に他の店のシャコの状況を確認する。
「おう! 今日は結構獲れてるみたい……ん? あ、
梨寿って誰だ……あ、先生の下の名前か!
「お、おじさんもお元気そうで……」
司先生は気まずそうだが、おじさんは嬉しそうである。
「つーことはこの子は教え子か! 学校でシャコを握るってどういう状況だい!?」
正直にスシバトルと答えて良いものか……
「私達、寿司同好会でお寿司の研究をしているんです! 今回のテーマがシャコなんです! 司先生はその付き添い!」
賀集さんが良い感じのカバーストーリーで誤魔化してくれた。賀集さん的にもスシバトルは話題に出さない方が良いとの判断だろう。俺もそう思う。
「これください」
そうこうしているうちに鳥路さんのシャコ選びが終わったらしい。結構な量になったな……
「私が払うわ。1キロぐらいかしら……鳥路さん達は先に他の店のシャコを見繕ってて良いわよ」
先生がお財布を取り出し、おじさんは計りと電卓でシャコのお値段を算出する。具体的な額は見えないがちょっとだけ司先生がビクッとした。そこそこするんだろうな……
そんな先生の財布事情を無視するように鳥路さんと賀集さんが他の店でシャコの目利きを始めていた。司先生の財布が空にならないことを祈っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます