第21話 フーイズスシオケマスク?④

前回のあらすじ:

生しらすの握りにポン酢をかけたいが難しい。


◆◆◆


 生しらすの握りにポン酢を合わせたいが、稚魚の集合体に液体をかけると分解してしまい寿司が崩壊する。他の選択肢を探すべきなのだろうけど、目の前の最適解を捨てるのは勿体無い。そんなことを思いながらも何か良い案はないか全員で頭を絞る。


「うーむ、こいつは宿題だな! 」


 これ以上は仕方がないと打ち切る大将。鳥路さんは不服そうだが妙案は出ずといった感じで首を縦に振った。


「ポン酢以外でアクセントを考えた方がいいかもね」


 賀集さんの意見はもっともだけど、代替案がパッと出ないのがもどかしい。大将の言った通り宿題になりそうだ。


「さて、二人も他に何か食っていくかい?」


 非常に悩ましいが、母さんに外食の連絡をするには少し遅い時間だ。軽食程度に数貫食べるなら問題ないか……?


「まずい寿司だ!」


「これはいけませんよ!」


 後ろのテーブルの客が大声で文句を言い始める。驚いて振り向くとウチの高校の制服を着た女子達だった。二人のテーブルの上には食べかけの学生向けのセットメニュー。初めて見るけど写真と同じ構成だし間違いないだろう。パッと見まずそうには見えない……大将の腕前や人柄的に妥協等はしていないはずだ。

 女将さんがそのテーブルに慌てて駆け寄る。


「な、何か問題がありましたか?」


「これは、そう、あれだ。独りよがりな男の寿司だ!」


「そうですよ! ワンオペ板前の限界だ! これは働き方改革が必要だ!」


 いちゃもんにしたってもっと言いようがあるだろ……もしかして、これが司先生の言っていたクレームを入れる我が校の生徒ってやつか? 良かった。鳥路さんのことじゃなかったんだな。


「あの、失礼ですが……夫が何かミスをしたとは思えないのですが……」


 流石の女将さんもこの雑なクレームには抗戦の構えを見せる。大将も口を挟まずにクレーマーの方を見据えている。


「ええ、わかっていますとも。何か言いたいことがあるならば寿司で語るべき」


「スシバトルよ! 大将!」


 すごく強引にスシバトルを挑んできたクレーマー二人。


「スシバトルか!?」 


「おいおい栄寿司でスシバトルなんて起きるのかよ! 最近はどうなってんだ!?」


 いけない。周囲の空気がスシバトルに飲まれ始め、お客さんがギャラリーになりかけている。このままでは本当にスシバトルが始まってしまう。


「うちは店内スシバトル禁止だぜ」


「ここがアメリカならあなた達は蜂の巣デース!」


 和装の給仕姿に着替えた根木さんとサブリナさんが戻ってきた!

 あといくらアメリカでもそこまでトリガーは軽くないと思う。


「ああ! 見てください! 女子には給仕がお似合いと言わんばかりの制服!」


「これは良くない!」


 さっきから何なんだこの人達……えらく性別について言及してくるな。


「うるせぇな。栄寿司はいつか私が継ぐんだよ。今は修行中だから仕方ねぇだろ!」


 根木さんの言葉を肯定するように大将と女将さんも頷く。


「未来より今! そこまで言うなら根木登緒子! あなたがスシバトルの相手になるのかしら!?」


「どういう理屈だよ……あれか? お前ら、スシバトル部だろ」


 スシバトル部! まさかその単語がこんな場面で出てくるとは!

 彼女達がスシバトル部だとして一体この行為に何の意味があるんだ!?

 まさか初めから根木さん狙いか!?


「あなたが勝てば正体を明かしましょう!」


 まずい。意地でもスシバトルする気だ! 


「……ちっ!」

 

 鳥路さんの舌打ちがはっきりと俺の耳に入る! 鳥路さんは、あれだ、強引なスシバトルの強要よりも美味い寿司の時間を邪魔されたことにキレているタイプ!

 鳥路さんが椅子から立ち上がり空気がさらに緊迫する!


「そこまでよ!!」


 根木さんとクレーマー達の間を割くように床に何かが突き刺さる。


 ……金属製の小型のおろし金だ。いくら金属とはいえ、簡単に床に突き刺さるものじゃない。一体誰が……


「寿司屋に蔓延る悪のスシバトラー……この寿司桶仮面が許さん!!」


 寿司桶をお面代わりにした恐らく女性がややくぐもった声で名乗りをあげる。


 ……本当に誰!?

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