現実転生〜俺は女の子で最強になるらしい〜
テルマエ出前
第1章:最強と呪い
プロローグ
◾️目覚めと女神
全身を包む温かい感覚と、草木の生える土の匂いで
彼はゆっくりと意識を取り戻した。
「……ん?」
瞼を開くと、見慣れない青い空の下、女性の顔が目の前にぼんやりと映る。彼は膝枕をされていた。
「ここは…?」
俺はまだ呆然としていた。直前まで、俺は交通事故に遭い、身体中がバラバラになるような、激しい衝撃を感じていたはずだ。
思考すること難しい、夢を見るようなふわふわした感覚だ。
見えているのはおそらく…看護師さんだろう。
きっと綺麗な人だ、女神のように美しいはずだ。目がぼやけてても輪郭だけでわかる。
彼は掠れる声で問いかける。
「看護師さん…俺、どうなったんですか…?」
「……」
「ここは…病院では…無いようですけど…」
(反応がない…)
「俺は…これからも、生きていける…状態なんですか…?」
そう問いかけると、ぼやけた輪郭は微笑んだように見えた。その微かな微笑みに、なんだか安堵を覚えた。
彼はゆっくりと上半身を起こした。すると、彼の頭を支えていた彼女の膝が、ガラガラと音を立てて砕け散り、ガラクタへと変わった。
なんと彼女は人形だったのだ。
(何…これ…!?)
ただ、その崩れ落ちた残骸を見て彼は驚いた。
そして意識が水面から上がってくるように回復した。
「俺は…『人形』に膝枕されていた!?」
彼は周りを見渡すと、そこには広い草原がただ広がっていた。
(え…ここは…どこだ!?トラックに跳ね飛ばされて記念公園か何かに飛ばされたのか?い、いや、それはおかしい、だって俺は、確か、そう!横断歩道を渡って…!)
彼は落ち着こうと、自分の足を見た。
(だ、大丈夫だ、脚はついてる…幽霊では無いみたいだ)
その時彼は断片的な記憶を、ふと思い出した。
(あの時、横断歩道で落とした本を取りに引き返した…)
(そう俺は異世界転生モノの本を読んでいたはず。
タイトルは…確か『なんか魔法で無双したらモテたので現実に戻って幼馴染を口説いた件』だったような…」)
(そうだ!俺は異世界転生が好きだった!
つまりこの状況、その本の出だしの内容に似てる!主人公が事故で死んで異世界に転生してモテモテになるやつだ!)
(俺は生きてる、そして横断歩道から飛ばされるにしてもここはおかしい、足もついてるし心臓も動いてる…つまり…)
一瞬の静寂の後、謎の確信が全身を駆け巡り、得体の知れない解放感と高揚感に彼は震えた。
「俺にもついに巡って来たんだ、異世界転生キターーー!」
俺はきっと転生したのだ。それ以外考えられないというか、考えたく無い。
俺がさっきまで読んでた、きっと剣と魔法が飛び交うファンタジー世界なはずだ。さっきの膝枕は恐らく初期スポーン地点か何かだろう。
ハンバーガーを買った帰り道に、横断歩道で落ちた本を取ろうとして事故にあったこと以外、全体の記憶が曖昧だ。所々しか思い出せない。
しかし、異世界モノの可愛い女の子とイチャイチャする妄想をしていたことだけは鮮明に覚えている。
(他の記憶は曖昧なくらいだし、大した人生ではなかったのだろう。)
そう、新しい世界で、俺は妄想を実現させるのだ。
◾️冒険の始まり
彼は新鮮な風が靡く平原と深い森林地帯の間に
位置する小さな丘に立っていた。
その斜め45度をキープする太陽の圧が強い。
遠くには無限にも存在を誇示する巨大な山脈が
薄らと存在を主張している。
(何も起こらない…転生したらさ、脳内に直接語りかけてくるステータス読み上げ子さんとか、出てくるはずだよな…)
「何か特殊な才能やチートとか…ああ、空とか飛べないのか?」
彼は呟いて手を掲げてみるが何も起こらない。
自らの腕が目に入ると、彼の服が、死ぬ前に身につけていた服ではない事に気づき、もしやと彼はポケットの中をガサゴソと探ると、何も持っていない事に落胆する。
「うわーマジか…現実世界に全部置いてきたパターンだ…」
彼は左右のズボンの内側を引っ張り出して嘆いた。
突然、空腹に耐えかねた彼のお腹が鳴ると
ふと前世の記憶が蘇る。
死ぬって分かってたら、持ち帰りにせず店で食べればよかったな…ハロウィンバーガーセット…
「あ、そういえば異世界の食べ物にも興味があったんだよな、異世界料理系とか好きだったし」
彼は森に入り、特殊な果実とかキノコとか成っていないか探したが見つからず、諦めて奥に進む。
すると川が流れている音に気づく。
「うん…川だな!ならまずは、魚を獲って食べるのもいい」
彼は料理系を諦め、河岸に落ちている小枝を集めて一生懸命擦り始めたが一向に火をはつかない。
「遭難系サバイバル動画のやつ、思い出したからうろ覚えで真似したけど、まったくダメじゃんか、くっそ」
彼は額の汗を拭い、擦る手を止めてため息をついていると
森から一人の少年が近づいてきた。
その少年は、小学校低学年くらいの歳だろうか。
俺が焚き火を起こす様子を見て、なぜか目を輝かせていた。
「おにいさん、変な服着てる。ここら辺の人じゃないよね、どこのひと?」
これは日本語?少し違和感があるけれど確かに日本語だ。
異世界モノなら、まぁ喋れて当然な設定が多いから不思議では無いか。
「えーっと、たぶん…かなり遠くから来たんだ。俺の名前はレイト!近いうちに英雄になるから今のうちにサインいる?」
いらないらしい。きっと後悔するぞ…
彼はペペロンという名前の少年だった。羊飼いらしい。
森の茂みから羊が数匹、頭だけ出してマヌケな顔でこちらを覗いていた。
「へー、こんな面白い火の付け方があるんだね!おとうさんなら杖無しで火をつけるのに」
(ぐぬぬ…異世界に来て早々、馬鹿にされてる感じがする…)
「最強系の魔術師か何かなのか、君のお父さん。すごいな、ハハ」
ペペロンがレイトの耳を不思議そうに見つめる。
「ん?でも、おにいさんの耳に…無い。いやっ、なんでもない!」
(ペペロンが誤魔化したのは何となく分かった。何か耳がおかしいのだろうか?まぁ無理もない、死んで間もないのだ、血とかが付いていたのかも知れない。)
「あ、もうこんな時間だ!帰らなきゃ」
ペペロンは羊を連れて街に戻る途中だったという。
どこの異世界でも街に行けば、ギルド的なところでクエストを受け、モンスターの素材を売ってお金を稼ぎ、生活していけるだろう。そういうものだと決まっている。
レイトは永遠に火のつかない焚き火を諦め
一緒についていくことにした。
川沿いの街道を抜け、険しい山岳地帯の山間を抜けると
一面小麦色に囲まれた中世風の街がキラキラと照らされている。
レイトはその美しさに圧倒され
自分の新しい人生に期待に胸を膨らませた。
ここが異世界転生、最初の街だ。俺の冒険が始まる…!
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