第17話 シルバー参上

 オズノとドクマの激突から凡そ一週間が経過し、ドクマは第二星域連絡ポート、第三星域連絡ポートを、毒針と毒ガス、毒牙と放射線攻撃を駆使して破壊しつくしながら第四星域連絡ポートとの連絡通路に迫っていた。

 レッドとブルーは、量子場の擾乱によりシルバーと量子もつれアンシブル通信が通じないので、二人だけでドクマを倒そうと、連絡通路の前で残り兵器全てによる攻撃を浴びせる。それでもドクマの歩みは止まらない。

もう打つ手はないと誰もが感じたその時、壊された外壁の隙間から見覚えのある宇宙飛行形態の兵器サイボーグが星域連絡ポート内に侵入した。サイボーグは変形し、大きな筒状の物体を担いだ人型の姿となり、ドグマの前に着地する。


「お初にお目にかかる。俺の名はシルバー、ヒダのシャドー・エージェントの一人、ヤジリ殿が支配しているドクマと言う名の中性子星蟲ニュートラーバとお見受けした。俺自身はそのほうには何の恨みもないが、このクワナで無念の死を遂げた多くの方々の恨みを晴らす為、そのほうの命を頂戴する」

 シルバーの芝居がかった口上にあきれ気味のヤジリが言葉を返す。

「何を訳のわからないことを言ってるんだい? 時間稼ぎにしてはお粗末だね」

 そう言って近づく大ムカデに、シルバーは背負った大きな筒を向けて引鉄らしきものを引いた。空間に未知の力場が発生し、筒から放射状に放たれる陽炎のような視界の歪みがドグマを包んでいく。


 大ムカデの動きが少しづつ遅くなっていく。それでも歩みは止まらないのだが、少しづつ、少しづつ、遅くなっていく。

「何を……した……体が……動かな……」

 異変を自覚してヤジリの発する言葉も遅くなっていく。

 シルバーに触れる寸前でドクマとドクマに取り込まれたヤジリは完全に停止した。


「もう大丈夫、この大ムカデは内部に潜んだ女蟲使いとともに、オスミウムの巨大な塊となった。もう生命活動が蘇えることはない」

「シルバー、どこに行ってたのさ、今の武器は何? どうしてドクマを倒せたの?」

「ブルー、難しい質問ばっかりしおって、実は俺もよく判らないのだ、ハンニバル軍師のメッセージを視れば判る……判るはずだ」

 シルバーが再生したハンニバルからのメッセージ映像には、クワナを襲った大怪獣が中性子星蟲ニュートラーバと呼ばれる中性子星の生き物であることが記録されていた。中性子星の生き物は中性子星の強大な重力から解き放たれると、オズノやドクマのように膨張して巨大化するが通常はすぐに絶命する。また小さな玉のような状態であっても十億トンの質量がある為、人が持ち運ぶことはできない。中性子星蟲ニュートラーバが巨大化しても死なず、宝玉の状態で持ち歩くことができるのは、彼らの表面を覆っているストレンジ物質のコーティングのおかげだ。ストレンジ物質が重力子とヒッグス粒子を遮断する為、重さを環境に感じさせない。さらにストレンジ物質が中性子星の異常な状態を維持する力がある為、低重力の環境においても生命活動を維持できるとのことだ。但し、ストレンジ物質の主体たるストレンジ・クォークはありふれたUPクォークまたはDOWNクォークに容易に遷移してしまう。 

 中性子星蟲ニュートラーバはこのクォーク遷移の阻害要素を含んでいるため中性子星以外の環境でも生きていける。裏を返せばこのクォーク遷移の阻害要素を無効化することができればただの物質に変換することができる。ハンニバル軍師はそう推理して、銀河中の古代文明の情報をあさり、探し出したのが先ほどの武器、禅銃ゼンガンとの説明で映像は終わった。

 ブルーはまったく腑に落ちていないが、納得したふりをして質問を続ける。

「ニブルヘイムのハンニバル軍師との間を一か月で往復したのが信じられない! ペルセウス座渦状腕とクワナをつなぐワームホールを束ねた第三星域連絡ポートは破壊されていたのに……」

「それはな、ブルー、俺はこの契約より前からハンニバル軍師の知り合いで、オケハザマ・ナガシノ戦役の際に、実験で疑似ワームホールを生み出す戦術サーガの仕組みを埋め込まれていたからよ。だからこの体で普通の宇宙艇では不可能な、疑似ワームホールの乗り継ぎによる旅が可能だったわけよ。銀河系をまたにかけたヒッチハイクみたいなものだが……この一ヵ月の旅は心底疲れたわい」

「シルバー、ゲンシツーがつらいとか言ってたけど大丈夫だったの?」

「そういえば……いつの間にかすっかり痛みがなくなっておるわ、不思議なものよ。あいつに会いに行く理由もなくなってしまったな」

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