第15話 ドクマの襲撃
第二星域連絡ポートからクワナ中央の直結ポートに繋がるロビーまできた一行は、今度はひとかけらもくつろいではいなかった。とりわけレッドは、今度こそヤジリが怪獣の体内に、隠れる前に仕留めようと、広範囲に目配りしている。
「ドクマ実体化!」
どこかから聞こえた若い女性の小さな声と共に、ロビー中央の床に細長い虫が出現し、膨張してゆく。複数の体節から数十本の足をはやしたその姿は、ムカデと大ゲジのあいの子のような何ともグロテスクなものだった。少しの間に体長百メートル、体高二十mに達して、膨張を続けている。
レッドは必死に、ブルーがオズノ襲撃前夜に見たカゼハのつれらしき少女の記憶から、ヤジリと言う名前の蟲使いの姿を探している、必ずどこかにいるはずなのに見つからない。焦ってきたところに大ムカデの中から先ほどの若い女性の声が聞こえた。
「いくら私を探しても無駄さ。カゼハのようにはいかないよ。私は最初から蟲の中にいるからね。そしてこのドクマは、その名の通り、毒の魔物なのさ! レオニダスと、カゼハの仇の赤い腕輪をしたエージェント、ここで死んでもらうよ」
既に体長五百mを越えた大ムカデは、体中から人の背丈ほどの細くて透明な針のようなもの放った。それまで施設の破壊や旅行者への攻撃を行わず、巨大化していくだけの姿に、逃げ隠れすることを忘れ、茫然としてドクマを見つめていた多数の旅行者が、針に貫かれ、針からの毒で全身を紫色に変色させて絶命する。
致死性の毒ガスの噴射、強力な放射線による攻撃も加わり、第二星域連絡ポートには死体の山が築かれていく。ドクマは、最終的には体長千二百m、体幅三百mのオズノと比べると細長いが、ほぼ同じ十億トンの体重を持つ大怪獣に成長した。
レッドはヤジリへの精神攻撃を試みる。しかしヤジリはドクマと精神も一体化させており、入り込む隙間が見つからない。シルバーの重火器攻撃が通用したかは判らないが、彼を欠いた影達には攻撃面で打つ手がなくなりつつある。
ブルーの防御障壁もいつまでもつかは判らない。障壁が崩された瞬間がレオニダス将軍の最後となる。
ブルーの防御障壁はドクマの毒を主体とした特殊攻撃とは相性が良かった。レオニダスの護衛が四名に減ったことも、防御戦略の幅を広げていた。シルバーが残していった超小型宇宙艇を防御障壁内に遠隔操作で呼び込むと、それに乗り込みレッドとともにドクマの周りを飛びながら宇宙艇の重火器による攻撃を加える。
互いに大きなダメージを与えることができず戦況が硬直状態に陥ったかと思われた時、ドクマからヤジリの予想外のメッセージが発せられた。
「これだけ破壊しておけば、第二星域連絡ポートも早晩、分離破壊するしかないだろうね。私はあんたたち蚊トンボと闘う必要なんかないのさ。第一星域連絡ポートを壊して、クワナの反物質炉が暴走すれば、ここにいる全員が死ぬのだから」
第二星域連絡ポートの中央直結ポート寄りの位置にいたドグマは、方向を変えてその長い体を第一星域連絡ポートに向けて多くの足で歩み始めた。
『レッド、どうしよう。やつが第一星域連絡ポートに侵入してそこを破壊するのを阻止する手立てがないよ』秘匿通信でブルーがレッドに訴える。
『ブルー、ドクマの進行方向に回り込み、第一星域連絡ポートの手前であれを投げて、印と命令を詠唱しろ』
『レッド、あの怪獣を呼び出す印が判らない』
『ブルー、きっと彼女の一番大切なものの名前だ。試してみろ。駄目ならここで死ぬだけ、大したことじゃない!』
『判ったレッド、やってみる』
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