第13話 オズノとの死闘(後編)

“ヤジリとホテルの部屋で話していたにはずなのに、ここはどこ? 私、オズノと一体化している! 任務の途中で精神攻撃を受けたのか? それならレオニダスが近くにいるはず、弟の仇を討たなければ〟

 数秒の意識の切り替わりを経て、レオニダス暗殺の使命を思い出したカゼハはオズノの視覚を利用してレオニダスの姿を探す。そしてすぐにその姿を捉えた。

“弱々しい防御障壁、オズノの質量で押しつぶしたらひとたまりもないね〟

 レオニダスを障壁とともに押しつぶそうとして近づきながら、仇の男の隣で油汗を流して何かを詠唱している少年の存在に気付く。

“子供? 誰? この子……見覚えがある。私を姉と呼んだ……ゴロー? 違う……そうブルー、ブルーだ! 何でここにあなたがいるの? このままじゃレオニダスの巻き添えにしてしまう!〟


 オズノを跪かせ、両目の間の甲皮膚から上半身を露出させて、カゼハはブルーに呼びかける。

「ブルー、カゼハよ。危ないからここから逃げて!」

 ブルーは、レオニダスと蟲の間で通せんぼのように両手を広げ、何か叫んでいる。

「カゼハ、カゼハなの? どうしてこんなひどいことをするの? 将軍は銀河の希望の星なんだ。絶対に死なせないよ!」

「ブルー、そこをどいて。レオニダスは弟とヴィクター将軍の仇、ここで死ぬべき運命なの」

 カゼハはブルーの視線が、自分の左肩後方に移り、悲鳴のような叫びをあげたことに気付く。

「レッド、やめて! カゼハを殺さないで!」

 次の瞬間、首に強い衝撃を感じた。カゼハの視界には、天井、オズノの身体、床、レオニダスとブルーの姿、別の天井、オズノの身体から露出した首のない自身の身体、それらが瞬時に入れ替わって見えている。

何かにふわりと抱きとめられ、少年の顎と胸らしきものが見える状態で、視界の動きが止まる。


“やられた! 緊急生命維持装置が頭部だけで血液を循環させているけれど、あと十数秒で絶命する〟

薄れていく意識の中で、彼女の頭を抱きしめて泣いているブルーの姿、そして周囲に浮かんでいる無数の凍結した旅行者たちの骸を認識した。

“覚えていないけれど、この破壊と殺戮は私とオズノがやったのね。ブルー、あなたはそれでも私の為に泣いてくれるの? 優しい子。でもまだヤジリが残っている。あなたがここで命を落とさないように一度だけ、オズノを使えるように印を残すから、どうか生き延びて〟

 カゼハは、消えゆく意識の中で、精神接続しているオズノに実体化の解除を命令し、次の指令を与える者の精神パターンを埋め込んだ。そして印をブルーに伝える前に、彼女の意識は、尾部を折られたオランダの涙のように瞬時に輝く光の粒子と化して、この世界に広がり散華した。


 ブルーの防御障壁が消滅する寸前に、小型宇宙艇に変形したシルバーがレオニダスと生き残った護衛を艇内に回収する。

 ブルーはカゼハの首を抱きしめて、目の前の床に転がる小さなオレンジ色の宝玉に戻ったオズノの蟲塊を見つめている。

「ブルー、たとえお前の友人であっても、これ以上の犠牲者をだすことはできない。カゼハと言うこの少女は、斬らねばならなかったのだ。判るな?」

 レッドの冷徹とも思える言葉に、ブルーは泣きながらうなずいている。

「その女の最後の思念を読んだ。お前に先ほどの大怪獣を一度だけ使えるように印を残したようだ。目の前の蟲の形の玉に、印と命令を伝えればよいらしいが印の内容を読む前に彼女は絶命した。同じような大怪獣を使える少女がもう一人いてヤジリと言う名前らしいことも判った。戦いはこれからだ。泣いている閑はないぞ、ブルー!」

 レッドにはブルーの心も読めている。姉によく似た女性の目の前での惨死、ブルーの心の一番大切な部分からの激しい痛みが伝わってくる。それでも前を向かせる為に、厳しい言葉を投げている。


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