第12話 オズノとの死闘(前編)

 クワナ中央の直結ポートに繋がるロビーにて、ゲートのオープンを待っていたレオニダスとその護衛百人余りの前に、銀髪、赤眼で薄手の白いロングドレスを纏ったガラス細工のように華奢な少女が歩み寄る。護衛の中に紛れている三人の影に緊張が走った。

『武器は携行していない、特殊な思念波もだしていない、しかし俺の予知能力が最大級の危険を感じている』レッドがブルーとシルバーに秘匿通信で警告情報を飛ばす。

“カゼハ? 髪と眼の色が違うけどよく似ている〟

ブルーは警戒しつつも襲撃者と認識できていない。

 シルバーは、搭乗ゲートで武器検知されないように事前に取り外して荷物に偽装しておいた兵器類を遠隔操作で起動し始めた。


「オズノ、実体化!」

 そう叫びながら少女が投げた小さな黒い玉は、ゆっくりと回転し、周囲の時空を捻じ曲げながら数メートルの巨大なカブト虫のような物体に変貌して着地する。施設の床が広い範囲でいきなり陥没し、多くの旅行者とレオニダスの護衛達が階下に墜ちていった。蟲は膨張の速度を増し、身の丈数十mに達し、施設の天井を突き破った。

 ブルーがレオニダスの周囲に防御障壁を展開し、接近する巨大なカブト虫を押し戻す。シルバーが荷物置き場から多数の兵器を飛ばし、蟲の周りを周回させながら攻撃を加える。だが蟲には変化が見られない。

 レッドは、先程の少女が巨大な蟲の背中に飛び乗ったことを視認すると、飛行装備と瞬間移動を組み合わせて後を追い、背後から斬撃を加えようと図る。間一髪のタイミングで少女は蟲の体内に沈み込み、蟲ごと斬ろうとしたレッドの刃は甲羅に弾かれて折れた。

『こちらレッド、巨大な蟲の物理属性がセンサーで検知できた。質量、およそ十億トン、現在体長百m、体高五十m程の大きさだが、質量と密度から予想される最大の大きさは体長四百m超の甲虫状の物体、まだまだ大きくなる。第三星域連絡ポートの直結ポートとの連結部は外壁まで完全に破壊され旅行者は宇宙空間に放出されるだろう。シルバー、装備を集めて超小型宇宙艇に変形し、将軍を拾いあげて、他の星域連絡ポートまで逃げてくれ』

『こちらシルバー、了解した。超小型宇宙艇への変形に二分ほどかかる。それまで時間を稼いでくれ』

『こちらブルー、二分も持たないよ! レッド、精神攻撃か何かで時間を稼げないの?』

 巨大なカブト虫は予想された最大の大きさに近づき、施設外壁までその体で破壊し始めた。施設内の空気と共に多くの旅行者が宇宙空間に吸い出され、瞬時に凍結し絶命していく。

 防御障壁内に、空気とともに取り込まれたレオニダス将軍と生き残りの護衛兵たちが浮かんでいる。その数は既に二十人を切っている。能力発動の為、印を唱えるブルーの顔には滝のような汗が流れている。

 宇宙空間用スーツを瞬着したレッドが、飛行しながら印を結び腕輪に精神攻撃のコマンドをセットする。しかしそれより一瞬早く、巨大な蟲が、陽炎のような空気の揺らぎと共に赤く発光した。

 巨蟲の周囲の半径2kmに及ぶ施設は、金属部分が飴細工のように折れ曲がって崩れていく。空気が残る部分では壁や床まで激しく燃えている。ブルーが熱攻撃に気付いて防御を切り替えるまでに障壁の外周近くにいた護衛達の身体が発火し、絶命していく。

 レッドはテレパスを駆使して、蟲の中に潜むカゼハの心に接触した。

“この女の心はどうなっている、先程の少女の姿によく似た意識が、どす黒いコールタールのような意識に覆われて眠っている。どちらを攻撃すればよい? もう時間がない、ブルーが持たない!〟

 一瞬の逡巡ののちに、レッドは心象空間で使う心の刃、サイコブレードで黒い意識をなぎ払った。

 眠っていたカゼハの意識が覚醒し、蟲の赤熱化が停止する。

「ふー! 助かった。耐熱防御に使う力、もう残ってないよ」ブルーは安堵の溜息をついて少しだけ気力を取り戻し、防御障壁を空気の保全と物理攻撃対策に切り替えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る