第11話 ブルーとカゼハ
「姉ちゃん!」
ヤジリと別れてスーベニアショップで土産物を物色していた時に、側にいた体に密着した奇妙なスーツを着た少年の発した言葉がカゼハを激しく動揺させた。
「あなた……今何て言ったの?」
「……ごめんなさい。人違いです。あなたが姉にとてもよく似ていたから」
そう言って手で鼻をすすりながら去ろうとする少年の瞳が潤んでいる。
「……待って……良かったら少しお話しましょう?」
いけないことと思いながらカゼハは、士官学校に行くために故郷を去った時の弟と同じ年頃の少年を呼び止めてしまった。
カゼハとブルーはドーナツショップでホットココアを飲みながら談笑している。
「カゼハは、本当に姉ちゃんによく似ているよ。最初見た時は、姉ちゃんが生き返ったのかと思ったくらい。姉ちゃんは俺の命の恩人なんだ。生きてたらたくさん恩返ししたいといつも思っていたから神様が巡り合わせてくれたのかな?」
「私も最近、弟のゴローを亡くしたからあなたに呼び止められた時、とても驚いたよ、ブルー。でもよく見たら弟とあなた、あまり似てないかも?」
「なにそれ、普通、この流れならそっくりだっていうんじゃないの?」
カゼハの天然な受け答えに、ブルーが不服そうに頬を膨らませる。
「多分、弟は背伸びしていたのだと思う。子供なのだからもっと私に迷惑かけてもいいのに、全然手のかからない聞き分けの良い子だった。あれが欲しいとかこれが欲しいとか、ブルーみたいに食べられない程、ドーナツを独り占めしたりとかして欲しかった」
「判った! 俺がカゼハの分も全部たべてやる。ゴローさんだと思ってどんどん持ってきて!」
「もう、いくら何でも無理でしょう?」
小一時間もしないうちに蛙のような腹になったブルーがカゼハの膝枕でいびきをかいている。
微笑みながら幸せそうにブルーの蛙腹をさすっているカゼハの背後にいつの間にか、ヤジリが立っていた。
「ターゲットの所在が判明した。明朝、直結ポートに移動するらしい。遊びはおしまい、行くよ、カゼハ」
名残惜しそうにブルーの頭を膝から降ろし、そっとクッションにのせる。
「カゼハ、行っちゃうの? その人は誰?」目を覚ましかけたブルーを残して、カゼハとヤジリは店を出て行った。
部屋に戻って暫くくつろいでから、カゼハがとても言いにくそうな口調で相談を切り出した。
「明日、レオニダスを襲撃するのにオズノを使ったら、あの子も死んじゃうのかな?」
ヤジリがカゼハに背を向けて応える。
「当たり前だよ。奴らがどんな護衛をつけているか知らないけれど、第三星域連絡ポートを火の海にして、レオニダスとともに爆発させるのだから」
「今からでもレオニダスだけを殺すことはできないのかな。蟲を使わないで、私達の力だけで」
「それができるなら、ショウノで多聞丸がレオニダス一行を屠っているよ。オズノかドクマを使わないと無理さ」
ヤジリはカゼハの方を振り向かずに言い募る。
「……でもやってみなければ判らないのでは?」
カゼハの重ねての問いかけに、ヤジリの声音が変わった。
「暗闇党のゴドー党首の言ったとおりになったね。カゼハ、あなたには親しくなった子供が殺せない……これまで一緒にやってきてとても残念だけど……もう一人のあなたを呼び出すしかないんだね」
ヤジリが右手を頭上にあげて、大きく指を鳴らした途端、カゼハの首がガクンと俯いた。そして再び前を向いた顔は別人のように憎しみに満ちた険しい表情に変わっている。
「念の為に聞いておくけど、あなたの名前は?」
ヤジリがカゼハだった存在に問いかける。
「ライハ、カゼハの副人格、虐殺をこの上なく愛するサイコパスさ。つまらない子供の為に、危うく虎の子の蟲を無駄にするところだったよ。こいつはオズノを部屋に残して、今夜のうちに単身でレオニダス一行の部屋に行こうとしていた」
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