第9話 クワナ宇宙港へ

 レオニダス一行を載せた中型艦艇スパルタは、本拠地ニブルヘイムを発ってから凡そ一ヵ月の道程で、銀河の四大渦状腕と中央バルジを銀河帝国首都星フォルセティに直結する巨大なワームホールのハブ施設、クワナ宇宙港を間近に見る空域に達していた。ペルセウス座渦状腕を離れてからのこの二週間は毎日のように敵勢力の襲撃を受けており、一個大隊の兵力は半減し、スパルタの防御甲板層も傷だらけになっている。

 特に昨日迄滞在していた惑星ショーノでは、惑星の半分を流星雨が焼き尽くし、あわやという局面まで追い込まれた。レオニダスは、それまで何をしているのか判らなかったヒダの三人のエージェント達の超人的な活躍の情景を思い出していた。


“ブルー、まだ声変わりしていないあどけない少年が、どれほどの試練を経たらあれほどの防御障壁を展開できるようになるのか? 多聞丸と名乗る刺客の能力で近隣のアステロイドベルトから引き寄せられた隕石群が惑星ショーノに降り注ぎ、全ての構造物が破壊された数分間、スパルタを含む半径二百メートルの地域を無傷で守り抜いた。

 そしてシルバー、流星雨の生存者を狩りに来た敵武装兵団を、ガラクタロボットにみえる寡黙な巨人が、たった一体の兵器の火力で粉砕した様は凄まじかったな。

 極めつけはレッド、あのジゴロにしか見えない細身で軽そうな若者の超能力と武術だ。  

 再度、流星雨を降らせようと接近してきた多聞丸と惑星ショーノの近隣空間をまたにかけて互いに瞬間移動や擬態、刀や様々な武器での近接戦闘を繰り返し、最後には背後を取って斬首した。

 宇宙にはまだ信じがたい能力を隠した、敵には回したくない者たちが潜んでいることよ〟

 護衛大隊長でスパルタの艦長でもある若き将校、ラミレスがレオニダスに今後の行程を報告している。

「本艦は、後二時間ほどでクワナ宇宙港の第三星域連絡ポートに入港します。第三星域連絡ポートで凡そ二週間の検疫、ワームホール状態待機後に、ギンヌンガ・ガプ内部への直結ポートより帝国首都星フォルセティに遷移します」

 レオニダスはここまでの旅路で常に気を張り詰めていたであろう護衛隊長にねぎらいの声をかける。

「ラミレス、ここまでの護衛任務、ご苦労だった。本当に感謝している。ぬしは帝国首都星に行くのは初めてだったな。クワナはわしの盟友トクガワに厳重に警護されている銀河屈指の公共施設だ。ここまでくれば最早、武装集団の攻撃などあり得ない、旅行者の武器持ち込みへの警備も完璧だし、万が一の暗殺者の攻撃も影達が退けてくれる。

 実はな、旅行者が長期間滞在する為、星域連絡ポートはあらゆる娯楽施設を持つ超高級ホテルになっている。ぬしたちも待機期間中、羽を伸ばすとよい。

 それにしても帝国首都星を、銀河最大のブラックホール、ギンヌンガ・ガプのシュワルツシルド半径内に建設したガイウス朝の皇帝スキピオ・アフリカヌスはいかれておるよな。いにしえの函谷関でもあるまいし、防御に全振りにも程があろうに」

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