第6話 帝位禅譲の誘惑

「将軍、それはあなたを勢力圏内に招き入れ謀殺する為の罠です。火を見るより明らかなのに、何ゆえに平和をちらつかせられると、引っかかってしまわれるのか?」

 ハンニバルとレオニダスは、銀河中央のバルジ部分に勢力を張るレオニダスに友好的な軍閥の領袖マツナガからの『現皇帝が帝位禅譲を望んでいるので銀河中央に来られたし』とのメッセージへの対応について議論を闘わせていた。

「だが銀河中央に形式的な支配権しか保持していないムロマチ朝の銀河帝国皇帝が、有力軍閥の首領に帝位を禅譲しようとしていたらしいことは事実ではないか。オケハザマ・ナガシノ戦役前にヴィクターに同様の招待をしていたことは我らの情報網が掴んでいる。帝位を禅譲されれば、銀河中央バルジ、ケンタウルス座渦状腕、白鳥座渦状腕の軍閥と平和的な交渉で帝国の再統一ができるのではなかろうか? 戦乱の終結により、多くの民が命を落とさずに済むと思うのだが……」

 レオニダスの戦乱の世を早く収束させたいとの決意に気押されながら、ハンニバルも帝位禅譲に潜む危険性を言い募る。

「ヴィクターとあなたは彼らから見たら根本的に異なる存在であることがお分かりにならぬか? ヴィクターは旧体制を引き継ぐもの、あなたは革命児。ヴィクターの守るものは上位一割の貴族と富裕層、あなたが守るものは残り九割の一般市民、ヴィクターへの招待は本当の禅譲であっても、あなたへの招待からは死の臭いがする。ヴィクターへの……」延々と続く自身とヴィクターの対比をレオニダスは強引に遮った。

「判った、俺とヴィクターの違いは判ったからもう言うな! それでも俺はこの機会を逃したくないのだ。これ以上、オケハザマ・ナガシノのような犠牲者を増やしたくないのだ」

「……」

レオニダスの決意が固いことを悟ったハンニバルは、レオニダスが暗殺されずに禅譲の儀式に参加できる可能性を探り始めた。ハンニバルの長考は一刻を越えて続いた。レオニダスは不安げにハンニバルの様子を伺いながら部屋の中をぐるぐると回り続ける。


ようやくハンニバルが口を開いた。

「よろしい、将軍の禅譲の儀への参加、賛成しましょう。あなたが殺されずに帝位を譲り受けるのが最も戦乱の犠牲者が少ない方法であることは確かでしょう」

ハンニバルの賛意にレオニダスは安堵の溜息をもらす。

「但し、私の条件も飲んでもらいたい。一個大隊の精鋭と私が推奨する護衛、数名をつけて銀河中央に向かって欲しいのです」

「もちろんその条件を飲む。俺だって死にたくはない。ぬしがつける護衛とは何者だ?」

レオニダスは即答して、護衛について尋ねた。

「今は、ヒダの影達とだけ申しておきましょう。連絡を着けるのが難しいのでひと月ほどお時間をいただきたい」

「判った、その者達が参集するのを待とう。あらゆる戦術や武器、謀略に通じたぬしの推薦する者達、会うのが楽しみよ」

そう言って豪快に笑うレオニダスの言葉と仕草が、危険に満ちた旅路に希望の瞬きをもたらしていた。

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