第3話 凱旋パレードと陰謀

 オケハザマ・ナガシノ戦役でのレオニダス・オダ・ツァオツァオの圧倒的な勝利と次期銀河皇帝と目されていたヴィクター・タケダ・ユアンシャオの敗死の報はあらゆる通信網を経て銀河中に広まっていった。

 ペルセウス座渦状腕のレオニダスに中立の立場をとっていた軍閥首領はこぞって彼の傘下に入ることを表明し、敵対的な軍閥の領袖も水面下で講和を求めてきた。

 タケダ軍閥が強固に支配していた射手座渦状腕の残余の勢力の動向が懸念されたが、レオニダスがいち早く発令した新たな支配地域での徴兵の廃止と、既得権益階層が肥大化し五割を越えていた租税負担率を二割に引き下げたこと、通商同盟への新規参加の障壁撤廃が功を奏し、一般市民からは熱狂的な支持を持って迎えられた。

 だが凄惨な敗戦の痛手に沈黙しているタケダ軍属の将校と兵士、貴族から平民に落とされた射手座渦状腕の支配階層は、レオニダスに強烈な憎悪をいだき、復讐の機会を狙っていると思われる。


「将軍、背中が丸まってますよ! もっと笑顔を見せて、市民に手を振って!」

 レオニダスは本拠地惑星ニブルヘイムでの凱旋パレードでその雄姿を市民に披露しているのだが、悩み事が山積していてどうしても眉間にしわが寄る。自ら葬ったヴィクターの面影が去来し、広報兼カメラマンの側付き青年に注意されても、笑顔がでないし腕も上がらない。

「将軍、小さな悩み事など忘れて今日の日を楽しみなされ。あなたのその小人物的なところ、私は好きですが、明日死んでもおかしくない人の世のさだめ、今日喜ばずにいつ喜ぶのですか?」

 傍らの隻眼の老人。レオニダスが口説き落とした天才軍師、ハンニバル・タケナカ・コンミンが、見かねて若き主君を諭す。

「判った……もっと嬉しそうにしてみる」

心中を見透かされて、子供のように頬を膨らませながら何とか笑顔らしき表情を作ろうとする銀河の半分を手中にした男のらしくない姿が、ハンニバルを苦笑させる。


**


 ペルセウス座渦状腕から遠く離れた銀河のとある仮想空間で、円卓状の会議に音声のみで参加している数人の男が、レオニダスの凱旋パレードの映像を共有しながら密談している。

「辺境の田舎者が調子にのりおって、見るに堪えぬわ! タケダが勝てばこんなものは見ずに済んだ。ヴィクターの洗練された容姿と仕草、あれこそ余の後継者にふさわしかったものを」

 首座と思われる位置にイコンを表示した参加者がレオニダスへの憎しみのこもった言葉を発した。

「徴兵廃止と、租税のあり得ない水準への引き下げ、なんという下品なポピュリズム、我ら帝国貴族に霞を食えとでもいうのか、数千年に渡り帝国を支えてきたのは誰だと思っている。マツナガ、こやつをどうしたらよい?」

 首座の右隣の参加者がレオニダスの政策を批判して、マツナガと呼ばれた参加者に問いかける。

「正面からレオニダスを倒すのは難しくなりましたな。オダ艦隊はタケダの残余の艦艇とオダの麾下に新たに参集した者達を加えて、かつてのタケダ覇権艦隊に匹敵する陣容となっておりますのでな……まあ手段を選ばずということであれば、このマツナガには策があります……ここから先は陛下との秘匿回線で」マツナガの発言で首座の参加者以外のイコンが消灯する。マツナガから陛下と呼ばれた参加者に秘匿情報が伝えられた。


「余が、ヴィクターの勝利の暁に催そうと準備していた帝位禅譲のテンプレートを使うがよい。どうせ譲ろうとしていた玉座、あの田舎者が排除できるなら御の字よ」

 陛下と呼ばれた参加者の、マツナガの提案を聴いた後の喜びに弾む声で会議は締めくくられた。


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