第二十七章

 病院の前では報道陣が集まっている。ただ敷地内には入れない。医療機関の特性上、クラスターを発生させるわけには行かず、そして円滑な医療体制の維持の為に報道陣の存在は邪魔でしかない。少しでも敷地内に入れば不法侵入として通報するとあらかじめ警告を受けた。この国のマスコミの質なんてこんなものだ。

 「まだ捕まらないんだね」

 事件から1週間が経ったが犯人はまだ捕まっていない。

 「そのうち捕まるだろ」

 春樹はアイドル活動を休止して俺の見舞いをしてくれた。学校も休んでいる。仕方ないけど、あの事件とマネジャーとの報道がある以上、どこに行っても騒がれるなら休むしかない。会社はマネジャーにも有給を与えているそうだ。アパートにもマスコミが来て居るからホテルを借りて、そこに住まわせているらしい。

 この騒ぎ時間で解決させるか、事実を話すかでまだ会社は答えを出していない。社長としては事実を話す事にある程度の理解をしてくれたが、世間が聞く耳を持つかは分からないそうで、まだ保留にしてくれと頼まれた。

 Twitterでは話しの分かりそうなファンに向けてふたりから真実が話されるまで憶測を流さないようにアナウンスしている。公式YouTubeで真実を話すと今は約束している。その事で理性的なファンは事態の行く末を見守ろうと決めたらしいが、新参者のファンはそうではなかった。中堅のファンがなだめようとしても逆に炎上してしまい、古参組はあきらめムードだ。

 『あんなのファンじゃないよ!』

 『ファンならアイドル信じてやりなよ』

 その言葉にまた火がともり『古参がなんか言ってるよ』『沈黙してるなら肯定の証拠でしょ!』と話しがややこしくなり、また燃えた。

 もう手が付けられない。この事にマスコミはファンの間でも炎上していると報道したが、炎上しているのはアンチに近いファンで、他のファンは静観をしている。こういう報道の仕方嫌い過ぎてテレビ見たくなくなる。バブルフィルターと同じだ。バブルフィルターとはユーザーが興味を持つ情報だけを選択して、ほかの情報は手に入りにくい事を示す。その事で自分の発言は多数派だと思うようになり、まるで泡の中に閉じこもってしまう状態を指す。これと同じ事を日本のマスコミは今しているんだ。

 春樹はりんごの皮を剥いている。器用に果物ナイフを使って、ウサギの形にしていく。

 「はい」

 「まるで女の子だな」

 「母子家庭だから手先は器用なんだ」

 「……そうなのか?」

 そう言えば春樹の家の話はしたことがなかった。

 「アイドルなんて儲からない仕事してるって思うでしょ? でもね、コンカフェしていた時もそうだったけど、誰かを楽しませるのって楽しいから好きなんだ。ーーー竜胆、僕さアイドル続けたい」

 春樹は真っ直ぐ竜胆を見る。

 「良いのか?」

 「うん、本当の事を話そう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る