第二十章
裁判は長く続くことになりそうだ。
刑事事件では今回の脅迫文は実際に危害を加える意思がないと判断され、検察の方では不起訴処分となった。不起訴処分とは被疑者が反省の色を示し、証拠等を隠す事がないと判断された場合に検察が裁判を行わずに不起訴処分とすることがある。または証拠不十分での不起訴処分もある。今回は証拠隠蔽も可能性が低く、世間の目も出社社に向けられていることから、私刑的な意味合いで既に罰は下されている。
司法は世間のバッシングを一部であるものの判断材とすることがあり、充分過ぎるバッシングにより刑罰は不要であると判断することもある。これは司法の存在が反省を促す事に重きを置いていることから、こうした判断する場合がある。日本ではすごく稀だが、今回はそうしたようだ。が、民事ではあくまで当事者同士の争いなので、司法は両者が納得するような結果を判断するしかない。
コレが刑事と民事両方で起訴した理由だ。
「裁判ってどうなってるんだ?」
叶が聞いた。
膝の上で悠はNintendoSwitch2をやっている。人気なマリオカートだ。
「今のところ事務所の言い分が正しいと判断されてるけど、損害賠償が1億なんて法外だ! って向こうが争ってる」
「実際、損害賠償の相場ってどのくらい」
「ものによるけど、1000万から今回みたいに1億とかもあるけど、そこから値下げられたりとか色々。あと、裁判で勝っても未納月があったりして、そこから更に揉めたりとか色々面倒になることもあるらしいよ」
「刑事事件より面倒だな」
「まぁね、でも、これで勝たないと意味ないよ」
「そうだな………」
叶の家の前には報道記者が集まっている。
叶の恋愛事情を聞きに来たんだ。人のそれも一般人のデリケートな恋愛事情をクソみたいなワイドショーを含めた記者が集まる。
昼間の人間は暇だ。人の恋愛がそんなにエンタメなのか。
ファンはその辺り身重な子も多い。
元より同性アイドルの恋愛を壁として見守りたいファンが居るから。
壁とは人としてではなく、壁というふたりの関係を邪魔しない存在として、ふたりの恋を見守りたいというファン心理だ。人のままなら邪魔になるし、自分の存在が圧倒的異物だし、っていう葛藤から生まれた壁思想。
この手の考えは百合好きにも腐女子にも通じる。
間に入りたいなんて考えはそもそも同性愛の世界を理解してないストレートな人種の妄言だ。
「週刊誌と何ら変わらないな」
「うん、まともな報道者じゃないよ」
そもそもファンじゃない層にアイドルの恋愛だとか興味ないんだ。俳優も歌手も恋愛や結婚したからといって騒いだりしない。ロックバンドがキーボードの女性とメンバー同士で結婚したからといってファンは祝福しても騒いだりしない。ニュースも一部報道したりするぐらいで、それがドーム満員で全国や世界ツアー組もうがロックバンドはそれ程騒がれない。それはファンがロックバンドに興味があり、バンドマンに惹かれているからで、そこに疑似恋愛要素は皆無だ。
対してアイドルはどうしても疑似恋愛が大きくなる。だからひとたび恋愛が発覚すれば騒がれる。
何度も言うけど、本当に騒いでるのは一部のファンやファンですらないハイエナ共だ。
「叶さーん、お話し聞かせていただけますか?」
インターホン越しに女性記者が言うが出たのは母親だ。「息子は世間の不要な目に晒されて迷惑しております。今は何もお答えすることはありません」そう母親は言い、切ったのだがしつこい記者は聞く耳を持たずまた性懲りもなく鳴らした。
次第に警察が来た。道路を塞ぐような脚立や記者の集団に近所の人も迷惑している。健全な交通の妨げとして警察は記者達に警告を鳴らした。
「私達は報道の自由があります」
「その自由は道路を違法に塞いでも良いという権利ではない。退かなければ逮捕するぞ」
警察とそんな会話をしている。
当然だ。ハイエナの餌として私生活を侵される事も資本主義の奴隷として晒されることも権利ではない。そして、他の市民の生活を脅かす程の理性の欠如も報道機関の自由ではない。今の世界にジャーナリストは存在しない、あるのはただの卑しいハイエナ共だ。
警察はサイレンを鳴らした。
それは最終警告だ。ゆっくりとパトカーが記者達の群れに近づく。慌てた記者達は脚立を片付けて去っていく。
『今後、違法な取材は我々の目の届く範囲で許されない。当事者同士で話し合え』
それは民事不介入の原則で警察が動ける限界ラインだ。だけど、報道機関が今のように道路を塞ぐのなら警察も容赦しない。
色々と嫌われる事も多い警察だがこの時はティックトックでも警察の行動に称賛の声が届いた。もちろん、警察が報道機関を逮捕するのは難しいけど、頭の軽い記者達を退かすのは楽でいい。
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