第十六話 紅き龍
俺の店――って言ってもただの喫茶店なんだけどさ。
今日は店は休業。扉には「CLOSED」の札をかけてある。
相談したいことがあるとの事だったので、今俺の店に全員集合してる。
赤、青、黄、緑、黒。色で呼ぶのは見た目も相まってだけど、それが1番楽だからである。それにしても私服まで色分けしてるとか凄いな。
なんで俺の生活空間にヒーロー戦隊が普通に腰かけてんの? 夢オチ? いや、夢にしては空気が重い。
⸻
カウンターの方に、赤と黄が並んで座ってる。
ちょっと距離が空いてるのは、今の微妙な空気のせいだろう。
もう一つのソファ席には緑と黒。なんか将棋の観戦みたいに静かに座ってる。
みんなに飲み物を提供した後俺も座る。俺はソファ席。目の前に青がちょこんと座ってる。
誰も口を開かない。
俺も開かない。
……コーヒーをひとくち、あー空気のせいで胃が痛い。ミルク入れて胃に少しでも優しくしてくればよかった。
⸻
最初に赤が口火を切った。
「昨日の大怪獣……俺たち、手も足も出なかった」
黄が小さく頷く。
「必殺技も、全部効いてなかった。フルバースト・ジャスティス……完全に無視されました」
青は下を向いたまま。
「フロスト・ピアースも……当たってはいましたが、ダメージには……」
緑が無理に笑おうとしたけど、声が空回りした。
「いやぁ、笑撃インパクトも……ハハ……笑いどころゼロだったな」
黒は腕を組んで、深いため息を吐いた。
「玄武突もかすり傷ひとつ……どうにもならん」
全員が落ち込んでる。
戦隊ってもっとキラキラしてるイメージあったけど、今目の前にいるのは完全に負け戦の兵士たちだ。
⸻
……で、俺は思った。
「で、なんで俺なんだ?」
俺、ただのいつもの通りすがり。戦闘力ゼロ…のはず。戦闘力に関しては俺自身よく分かってないからゼロってことで。ヒーローに選ばれてないし。
なのでオレのところに集まる意味がわからん。
赤がこっちを真っ直ぐ見た。
「……あの後、みんなで相談した。でも答えは出なかった。神様から何か言葉があると思ったんだが、何も無かった」
緑が続けた。
「山中でさ、全員で『お願いしますー!』って叫んだんだよ。でも反応ゼロ」
「……で?」
黄が言った。
「考えた結果……神様の声があった時、必ずあなたがいた」
「…………」
は? 俺?
俺がキーアイテム扱い? ふざけてるのか?
⸻
「まさかそんなわけねぇだろ!」
俺は即座に否定した。
すると、正面の青――澪が、突然両腕をガシッと掴んできた。
「それでも!」
店内に響くくらいの大声。
普段冷静な彼女からは考えられない叫びに、俺も一瞬言葉を失った。
澪ははっとして、小さな声に戻る。
「……なにかに、すがりたいんです」
両手が震えてる。
彼女、まだ14歳。頭は良くても心は子どもだ。
そりゃ、巨大怪獣なんて相手したら、すがりたくもなるわな……。
沈黙。
重い沈黙。
⸻
耐えきれず、俺が口を開いた。
「……セオリーならさ、巨大ロボとかだろ」
言った瞬間、みんなの視線が集まった。
やめろ、注目すんな。
黄が渋い顔をする。
「確かに……でも、神の声が無いってことは、ロボなんて存在しないんじゃ」
その瞬間、
――チカッ、チカチカッ!
「ん?」
上を見るとつけてないはずの蛍光灯が点滅している。あれ?間違ってつけたか?おれ。
と思ったら一瞬、視界が真っ白になるほどの閃光。
『――巨大な象徴を探せ』
全員の頭に、声が響いた。
⸻
光が消える。
黄がぽつりとつぶやく。
「今の……何?」
青が立ち上がり、再び俺の両腕を掴む。
瞳が潤んでて、頬が赤い。
「やっぱり……大地さんが!!」
「うぇ!?」
すぐにハッとして手を離すと、青は顔を真っ赤にして小さくなった。
「……す、すみません……」
そしてコソコソと席に戻っていった。
おい、なんなんだこの流れ。
⸻
「……象徴ってなんだ?」
赤が腕を組んで考える。
「私たちそれぞれにモデル的なのがなにかあるんじゃない?」
「なるほど。それを探せということか」
黄の発言に対して、黒が頷いた。
とはいえなんの検討もないものをバラバラで探してたらキリがない。
「まず赤から探すでいいんじゃないか?その後は分かりそうな順番でってことで」
俺がそう言うとみんなが頷き、赤から調べることになった。
赤は顎に手を当てながら言う。
「単純に考えれば、炎でリーダー……ドラゴンとかじゃねぇか?」
「ドラゴンのぬいぐるみでも探す?」
緑の冗談に青が真面目に返す。
「神の言葉は『巨大な』だった。ぬいぐるみでは小さすぎる」
確かに。巨大な象徴ってくらいだからなぁ。
でかいドラゴン……あるか? いや、現実に?
全国探せばあるのかもしれないが、時間が足りなさすぎるぞ。
⸻
しばらく議論した後、赤がポンと手を打った。
「あ、そういえば……」
全員の視線が赤に集まる。
「昔よく遊んだ公園があってさ。遊具が全部つながってて……でっかい龍みたいだなって思ったことがあるんだ」
おお、出た出た。
黄と緑が顔を見合わせる。
「町外れの公園……あったな」
黒がゆっくり頷く。
「確かに子どもたちを連れて行ったことがあるわい。言われてみれば……龍の形に見えなくもない」
だが、と眉をひそめた。
「あの公園は危険だからと閉鎖されているはずじゃぞ」
「マジか……」
赤は肩を落とした。
俺はコーヒーをひと口。
「とりあえず行ってみるだけ行ってみない?」
結局、それで決まった。
⸻
少し長めの散歩。
みんなで歩きながら、象徴について「あーでもない」「こーでもない」と議論を重ねた。
赤は「やっぱ龍だろ」って譲らないし、青は「巨大というなら遺跡かも」とか言い出すし、緑は「象徴ってのは銅像だろ、俺らの町長の像とか?」って言って黒に「ふざけるな」と一蹴されてた。
で、たどり着いた公園は――雑草だらけの廃公園。
立ち入り禁止の看板、黒と黄色のテープがあちこち貼られていて周囲は錆びついた柵。
中に見える遊具は確かにでかい。
そして確かに……龍に見えなくもない。
俺たちは、黙ってその光景を見上げた。
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