第十一話 美咲の考察と長い一日

私、東雲美咲、25歳。元軍人の私は職業柄仲間の中で自然とまとめ役になりがちだ。


 最初は赤レンジャーである神崎陽翔君と、青レンジャーである姫野澪ちゃん。そこに私が合流して三人チームで戦ってきたが、先日緑レンジャーである笹倉悠斗が正式に仲間入りした。


 悠斗は私より2つ上の27歳。元ピン芸人。正直歳が近い人が仲間にいてくれると少し気が楽になる。

 彼の攻撃はなぜか変な効果音がついており(どこからか鳴り響く)敵の集中を乱し、動きを止める。お笑いで生きてきた彼ならではのスタイルは「空気を和ませ敵を無力化する力」らしい。

陽翔君の直情的な性格、澪ちゃんの冷静すぎる分析、私の軍人気質。それらがぶつかり合って重苦しくなりそうな場面でも、悠斗が「いやいや! そんな深刻な顔すんなって!」と軽口を叩くと、不思議と場がほぐれる。結果、チーム全体の呼吸が合う。戦闘における彼の役割は、それ以上に大きい。


 ……そして、忘れてはならないもう一人。藤原大地君。


 彼はヒーローではない。少なくとも、公式には。だけど私たちはもう、大地君をただの「通りすがり」だと片付けられなくなっている。


 初めて彼を見たのは、怪人の攻撃を真正面から受けながら無傷で立っていたとき。炎も氷も、鋭い爪も牙も、彼には通じない。どれほどの破壊力を持つ技でも、大地は「うわっ! 痛ぇな!」と肩を払う程度。私たちが何度も命懸けでしのいできた攻撃を、彼はまるで日常のトラブルのように受け止めてしまう。


 陽翔君は単純に「やっぱりあいつも正義の仲間だ!」と大はしゃぎ。澪ちゃんは冷静に「解析不能な現象です、今後も観測を継続します」と記録をつけていた。悠斗は「芸人仲間でもあんな強靭なリアクション芸は見たことない」と、なぜか芸の枠に分類している。


 私はというと……正直、複雑だ。軍人時代、私は「人は攻撃を受ければ傷つく」「守るためには力が必要」という現実を学んだ。その常識を根底から覆す存在が大地君だ。彼は力を持っていない。武器も訓練も必殺技もない。だが怪人の攻撃を無効化してしまう。

 しかし今までが大丈夫なだけで、今後もそうとは断言できない。私たちは変身の効果でダメージを軽減できる、でも大地君は変身できるわけじゃないし、そもそも神に選ばれていない存在なんだ。



 不思議なことに、彼の存在は私たちに「余裕」を与える。大地君が近くにいれば、最悪自分が倒れても彼が生き残るだろう、という安心感がある。命を張って戦う以上、それは大きな支えになる。


 けれど同時に……彼自身は戦闘に参加する意思など全くないように見える。ただ「巻き込まれただけ」だと必死に主張している。実際、彼の行動は一貫して「逃げる」か「傍観」するかだ。


 ――それでも。


 私たちが怪人に押され、苦しい局面に追い込まれるたび、なぜか彼が戦闘のど真ん中に立っている。そして彼の無意識の行動が、結果として戦局を変えてしまうのだ。


 運命なのか、偶然なのか。少なくとも私は、もう彼を「ただの一般人」とは思えないし、大事な仲間の一人だと思っている。私は何があっても彼だけは死なせない。

 そんなことを考えながら今日も私は行きつけのジムで身体を鍛える。

 


***



 不穏な気配を纏いながら、その怪人は姿を現した。


 全身がぬるりとした鱗で覆われ、背中からは絶えずバチバチと電流を迸らせている。ヒレのような腕を振るうたび、商店街の看板や電柱が弾け飛んだ。

 名を「電撃ウナギ男」。見た目のインパクトだけで、子供は泣き出し大人は逃げ惑う。

 気持ち悪いことこの上ないわね。


「出やがったな!」



「烈火一閃――変身!」

 

「解析開始。最適化――変身モード、起動。」


「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」


「笑いも涙もひっくるめて――変身ドーン!」


 四人の影が並び立つ。

 その姿はまるで舞台の幕が上がる瞬間のようだった。



「電撃ウナギ男! ここでお前を止める!」

 陽翔が叫び、烈火刀を構える。

 そして私たちの戦いが始まった。


 陽翔君は斬撃、澪ちゃんは分析と槍攻撃、私は銃による光弾で牽制、悠斗はトンファーで殴りつける。

 しかし怪人の電撃は想像以上に強力で、私たちを何度も吹き飛ばす。


「くっ、火力が高すぎる!」


「データ値、常軌を逸してる……!」


「ギャグ音も通じねぇのかよ!」


「全員集中しろ!」


 四人は必死に耐えながら戦っていた。


 ――その時だ。


 何の前触れもなく、一人の青年が商店街の角を曲がってきた。

 イヤホンで音楽を聴きながらスマホをいじり、片手には食材の入ったスーパーの袋をぶら下げて。



 藤原大地君。


 まるでいつも通りの買い物帰り、戦闘など一切眼中にない様子で。



「おいおいおい……嘘でしょ……」


 怪人に銃口を向けたまま、思わず呟いた。


 次の瞬間、大地は怪人のすぐ横を平然と通りすぎようとし――。


「バチバチッバチンッ!」


 電撃ウナギ男の触手が彼に直撃した瞬間落雷があったかと思うほどの轟音と、周囲が何も見えなくなるくらいの閃光が辺りを包む。


 

!?!!?




 大地はイヤホンを外し、眉をしかめるだけだった。髪が少し逆立ち、ほんのり焦げ臭い。けれど本人はまるでかすり傷すら負っていない。


「痛って!静電気!?」


 触手が触れた箇所を慌ててさする、さする手にぶら下げていた買い物袋が結果振り回される形になり怪人に目元に直撃する。


 ――ズガァァン!



「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


 絶叫する怪人がビリリリリリィィィィィッっと激しい音とともに、暴走した過剰な電流によって全身を痙攣させて黒煙を上げる。



 あまりに間抜けで、信じられない光景だった。


 え?電気ウナギって自分の電流っで感電するの?


「え、ちょ、俺なんもしてねぇからな!? 勝手に当たったんだって!ってキモ!!」


 大地は慌てて弁解しながら、袋から転がり落ちたキャベツを拾い集めていた。


「今だ、仕留める!」


 私が声を張り上げ、四人が同時に必殺技を放つ。




「烈火一刀両断ッ!」

「フロスト・ピアース!」

「笑撃インパクトォ!」

「フルバースト・ジャスティス!」


 光が貫き、怪人が炎に包まれたかと思うと次の瞬間、炎ごと氷に包まれる。それを笑いの衝撃が打ち砕き、電撃ウナギ男を完全に吹き飛ばした。


 商店街に再び静寂が訪れる。



 大地君はなおも落ちた食材を必死に袋へ戻していた。



「やっぱり大地も俺たちの仲間だ!」


「これが本当の“袋叩き”ってやつだ!」


「……統計上、大地さんの存在は戦況の変数として不可欠ですね」



 私は銃をホルスターに戻し、思わずため息をつく。

 本当に大地君という人は...常識という枠の外に生きている。

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