ep10.岡山県倉敷市 キビ✖キヨネ
浩は岡山に来ていた。
今回は、岡山に来る前に、あおのところに寄って、ニナと交換で移動石を幾つかもらってきていた。
あずがいう。「近いうちに、この辺りで大きな災害が起こるって、
「月光浴以外に、この辺りの人?達に報せられることがあるといいけど。」
マビという若者がいた。キヨネといつかは、という仲である。
ところが、キビの長老は、災害が起こるならば「キヨネを柱に使う」といい始めた。
柱とは、堤防や橋など災害で壊されやすいところを強化するために、キヨネを埋めてしまおう、という話である。
キヨネは柱であった。柱は柱を断れない。その他であてがうことはあるにはあるが、効力が相当落ちる。
だから、柱が居るなら必ずしなくてはならないことであった。
柱になるということは、そこに縫い付けられ復活はない。ということである。
マビは悲しんだ。どうにかキヨネが柱をせずに済む方法はないだろうか。
甲斐もなく、近くキヨネは柱として埋められてしまう。
マビは、無理な旅を続けたために、縮んで子供に戻ってしまっている。
浩は今、マビと話している。
「まずは、あなたの身体を戻しましょう。」
「そのためには、月光浴を欠かさず続けて下さい。」
「そうすれば必ず元の大きさに戻れます。」
伏し目がちに黙って聞いていたマビが弱々しく話し始めた。
「キヨネが居なければ、も
浩は核心を射抜かれた気がして、慌てて早口で話す。
「でもまず、治しましょうよ。」
マビは、力なく頷いた。
浩の横であずは悲しそうな表情で黙って聞いているしかなかった。
歩きながら浩は腕を組んで考え込んでしまう。
「先に柱として埋めてしまうのがなんとも・・・。」
「そうよね。災害が起きてからの対応だったら、そりゃ、絶対とはいえないけれど何とかしようもあるでしょうね。」
あずもうつむき加減で話す。
長い雨が来る。キヨネが柱になるまでそんなに日数がない。
「どうだろう。」浩があずに話しかける。「恐らく洪水を防ぐために柱を欲っしているんだろう。ここを
長老に問うてはっきりさせよう。」あずはうなづく。
キビの長老に会いに行った。
「そうです。越水によって堤が切れるのが分かっているのです。そこを柱で切れないように強化します。」
「もしも、柱をしなくても堤が切れないとしたら?」身を乗り出して浩が問う。
長老が首を横に振りながら力なく言う。
「理屈はそうです。しかし。」一旦ため息を付いて長老は力なく続ける。
「浩殿。そうではないのです。」
「確かに我々はそれしか方法がない。と思い込んでおるのです。例え必要ない犠牲になるとしても、それがあれば、それでいい、と。」
浩が畳み掛ける。
「そこまで分かっていらっしゃるなら・・・・」
「いっぺんにたくさんの心を、今までそれしか知らないことを、すぐには変えられんのです!」
それまで力なく俯いていた長老が、ぱっと顔を上げて目を見開き言を
「あれは、柱は、キヨネは、儂の孫でもあるのです。」力なくそういうと長老はまた俯いた。
「マビには、悪いことをした、と。思ってもおるのです。」
浩はもう、何も言えなくなってしまった、
吉備の神社は八岐様が用意してくれた岡山の宿である。
帰ってきた浩とあずは、向かい合って座った。
あずが切り出す。「どうしよう?」
浩は無言のままうなづく。「・・・八俣様に伺ってみよう。」
「え?なぁに?」
「一旦。
差海の神社
八岐が驚いたという表情で浩と向かい合っている。
「どうでしょうか?」浩が尋ねる。
「これが一番いいでしょうね。浩殿。これは、いい!」
浩はにっこり微笑んだ。
八岐が続ける。「では、私も急ごう。」
ちょっと離れて座っている采女の横であずが「あたし、何もわかんない。」と、むくれている。
采女がにっこり微笑んで、『良かったじゃありませんか。』と、応じる。
「だって、仲間はずれじゃん・・・。」
『あら。』笑顔のまま采女が続ける。『
『けっして、浩さんの行動は、あずさんを仲間はずれにするとか、蔑ろにするとかではないと思うのです。』
「だけどぉ・・・。」
『あら、あら。』采女は楽しそうである。
『これから、もっと色々なことが起こるでしょうね。』
『例えば、それが思いも寄らない事だとして。例えば、思いがけず離れ離れになったとして。』
采女はじっと、あずを見つめる。
『そうなったら、前もってお互い全て話して、全て分かってから十全に行動できるとは限りませんわ。』
「そうだけどぉ。そうかもしれないんだけどぉ・・・」
「なんか、置いていかれたって・・・いや、違うわ。そうじゃないけど・・・。」
采女が混ぜっ返す。
『全部うまく言ったら、そのあとでゆっくり話を伺ったらいいわ。』
とても嬉しそうである。
「そ・・・そうなのかなぁ・・・。」
そこまで言ったあとで何を思ったのか、あずは真っ赤になって顔を伏せてしまった。
真備の神社。
大きな青写真を挟んで浩とあずが向かい合っている。
あずが嬉しそうにいう。「わかった。まかせて!」
浩が満面の笑みでうなづく。「すぐ、取り掛かろう。」
あずと浩は小田川の上にいる。
あずが両手で操作を始める。川底の土を深く掘り、土手から離して後ろに積む。何度も繰り返し、下流へと移動する。
浩は力が切れないように横からあずの腰を抱き、落ちないように支えながら力を送る。
「すごいわ。手を繋ぐと片手だったから、こんなに力が出せなかった。」
浩が言う。「すごいね。こうやって送れば力がすぐ尽きない。」
マビの
「
「ありゃぁ、役に立つんかの?」
次の日。
あずと浩は、堤防を昨日積んだ土までずらして川幅を拡げ始めた。
マビの
「おい、まてや。こりゃわしらぁのコトじゃろうが。」
「ほうよ。ほっといてええんか?」
「そりゃぁ、
その夜。河原にたくさん集まって月光浴をしている人が居た。
そして次の日、浩が見たものは、川を浚う、堤防を積む、堤防を固める。そんな
マビも居る。声が聞こえる。「縮むまで操作したら
それを見ながらあずと浩は、もう少し下流に移動した。
「頼んだよ。」浩があずに言う。あずがコクリ、とうなづく。
これが最後の力。
小田川と高梁川を切り離す操作。切り離した川はそのまま瀬戸内海へ各々流れる。
これで、もう簡単には土手は切れない。
操作は成功して八岐の設計通りに川は別々の方向に流れはじめた。
最後に八岐から預かった三重の強力な呪を降ろす。「
「あっ、はははははは・・・」いきなり甲高い声であずが笑う。
驚いて浩が横を見る。
あずが縮んでいる。
そしてそのせいで浩の支えていた手は、あずの腰から脇の下に行ってしまっていた。
「はっ、早くその手をどっかにやってくだちゃい。あっはははははは。」
残りの工事は月光浴をしながら
今までの倍以上の高さの越水しにくい堤防。
例え越水しても簡単に切れない堤防の幅、深い川底、広い川幅。
そして川を切り離して影響し合わないように。
「何が起こるかわからない」といえば、それはそうである。
しかし、その考えを、言い分に耐えうるだけのものを、みせることができれば意識が変わる。
柱が必要なくなった。
二人が上から視線を感じて下を見る。
笑顔で手を繋いでいるマビとキヨネがこっちに手を振っているのが目に入った。
そしてそのまわりでも、たくさんの
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