幕間 戦後の愚痴大会
「まずは、勝利を祝して、カンパーイ!」
アンソニーの音頭でビールジョッキが掲げられた。
カンカンカンっ
金属製のジョッキが合わさる音が響き渡る。
ここはワーズウェントの軍部の一室。メンバーはアンソニー、デイビッド、セイン、そして無理やり参加させられた王子だ
このメンバーは公式にアンソニーとジェシカが入れ替わった事を口にできる面子だった。
「みんな、本当にご苦労さまだったわねっ!でも、思ったより早く帰ってこれてよかったわ。ジェシカ、またムチャしたんでしょ?なんか、私への英雄扱いが凄くて、話し合わせてるけど、どゆこと??詳しく教えてちょうだい!」
アンソニーが出陣した3人を労い、話を促した。
ジェシカは、乱戦で戦闘不能となった王子から指揮権を奪うと、敵陣に躍り出て斬り込んで、敵軍を撤退させたのだ。
それは、アンソニーの武勇伝として巷に流布していた。
「まず、王子が進軍中に単独行動してブレイグの自警団捕まってですね」
セインがだいぶ前の時系列で説明しだす。
武勇伝には関係ないが、吐き出したくてしょうがなかったようだ。
「はい?」
予想外だったのか、アンソニーは疑問符付きで聞き返す。
しかし、本番はここからだ。
「それを女装した…あ、村娘に扮したジェスが迎えにいって、自警団で団員に襲われかけて…」
デイビッドがセリフを引き取るように続ける。
「ちょっ!襲われっ?」
「自警団の団長が止めて、未遂で終わったけどな。それに逆ギレした王子が、ジェスを狩人の小屋に連れ込んで、一晩中変な声聞かされてよぉ…」
実兄に妹の濡れ場の話はどうかと思うけど…よほど腹に据え兼ねていたようだ。
「やめろデイビッド!それは内緒だと!!」
王子は慌てて止めるがデイビッドの恨み節は止まらない。
「あんな目配せ振られたってよお…。一応見張りなんだから立ち去るわけにもいかないし、俺ぁ地獄だったぜ」
やってらんねぇ!と、デイビッドがジョッキをゴクゴク飲んで空にする。
「もしもし?あんたら、戦地で不謹慎過ぎない?」
アンソニーは会話の流れについていけず、引きつっている。
「とにかく!狩人の小屋からはスッキリした顔の上機嫌な王子と、疲労困憊のジェスが出てきた!」
座った目でダァン!とジョッキをテーブルに置き、デイビッドが続けた。
「その後戦闘になったんだが、王子が指揮が下手くそだからって、ジェスが援護に飛び出してって、夫婦喧嘩が始まったんだぜ」
セインがコクコク相づちを打つ。
「ジェスさん、王子に邪魔です!下がれ!ってバッサリ言い渡してましたもんねぇ」
「僕は後方支援を言い渡していたのに、言う事聞かなかったんだ…」
王子はビールを一気にあおり、ぷはーっと深ーいため息をついた。更に酒樽から追加を注ぐ。
「戦場で夫婦喧嘩!?あんたたち、相変わらず、時と場所を考えないわね!?」
アンソニーも相変わらず、全く敬意がない。
「王子がジェスを庇って落馬で脳震盪起こしたもんだから、ジェスが部隊の指揮して、バッタバッタ敵をなぎ倒して、こっちが優勢になったんだけどさ。多分お前が英雄扱いされてるのココ」
ようやくアンソニーが聞いた部分の本題である。
「さすがジェス!やるわね!オニクセルの野党討伐の時も、あのスピードは誰にも太刀打ちできなかったのよ!ああ、その場にいたかった!あの子が速さで私は力で、私たち、無敵だったのよ!」
アンソニーは目を輝かせて、妹と自分を褒め称えた。
「でもねぇ。その後の敵将と一騎打ちで捕縛され、連れていかれたんてすよ〜」
セインがサクっと水を差す。
「ふぁ!?捕まった!?うっそぉ!」
アンソニーは口をあんぐり開ける。
「みんなにはジェス…アンソニーはうまく立ち回るだろうから、見捨てるような事言っといて、置き手紙一枚残して、単身ジェスを救い出してきたんだぜ。空の天幕に置き手紙。俺はもう、生きた心地がしなかったぜ。何とかごまかせってさー。ふざけるなっつーの!」
再びダァン!とジョッキをテーブルに叩きつけられる。すでに5杯目だ。
「仕方ないだろう。兵を動かせばジェシカを処刑するって言われちゃさ。僕は隠し通路の存在を知ってたからね。囚われのお姫様を助ける絶好のシチュ!」
王子も珍しく結構飲んでいる。鉄面皮の顔がへら〜っとした。
「だからってふつー、単身で行くかっつーの!無事だったから良かったものの…」
デイビッドは呆れ顔でツッコミ、セインはコクコク頷く。
「こんなに常識が無い方だとは思いませんでした」
……今夜は無礼講と判断したらしい。
「王子!あんた、ジェスを危険にさらしたばかりか、戦場で総大将がなにやらかしてんの!!だから意地張らずに私たち二人とも連れていけば良かったのに!まあジェスを救い出したのは褒めてあげるけど!?」
アンソニーは真っ赤になって憤慨し、王子を羽交い締めにして、グリグリと頭にゲンコツをくれる。
「あだっいたたっ!ごめん、ごめんて!僕も色々ダメだったって反省してるよっ」
王子はゲンコツが痛いのか、普段の鉄面皮はどこへやら。何故か悲壮な顔になった。
「完璧な救出劇のはず…、だったんだけどなぁ…」
そして。誰にも聞こえない小さな声でボソッとつぶやいた。
その後は深夜までデイビッドやセインのグチや、アンソニーがいかに王子妃として楽しんでいたかで盛り上がり、すごい勢いでビールが消費されていった。
当然、翌朝は皆、二日酔いでひどい有様。オニクセルの子息は例にもれず、記憶がすっぱり飛んでいた。
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