第21話 覚悟
戦闘が終わり、残存部隊はデイビッドが取りまとめた。グレンは脳震盪は起こしていたものの、起き上がれるようになるとすぐ陣営に戻り、現状の確認をした。
「戦死者は右翼小隊18人、左翼小隊4人、中央小隊が5人、後方支援…死者なし捕縛1人………骨折など従軍不可となる重症者が7人です」
後方支援の副長が点呼の結果を読み上げた。
27名の戦死者に、沈思した。
グレンが先鋒として率いている軍勢は300人ほど。約1割の戦力を失ったかたちだ。だが、後方部隊はあと2000人ほど控えている。3日遅れて進軍してくる予定だ。
ジェシカを捕虜にされ、敵方の指揮官とおぼしき女剣士に降伏か撤退を求められたが、それが認められる状況では無かった。
妃一人のために大義を変えるわけにはいかない。
そもそも、捕らえられたのは対外的にはアンソニーである。
このまま進軍すれば、ジェシカは切り捨てなければならないだろう。
「みんな疲れただろう。明日は1日ここで駐屯する。ゆっくり休んでくれ」
グレンは各部隊長、副長を呼びねぎらった。
「王子、ジェスはどうなるのです!?」
兵士の一人が声を上げた。婚約式のとき、ジェシカと仲良く話していた男だ。
「アンソニー、は…、命がけで突撃した。あの状況で捕縛で済んだだけでも幸運だ。彼ならうまく立ち回るだろう」
無表情に告げるグレンにみなざわついた。
ジェシカの働きで命拾いした者も多い。
みな複雑な心境で下を向いた。
グレンはデイビッドにしばらく一人で休むから、夕飯の頃になったら呼びに来るよう告げ、自分の天幕へ引き上げていった。
デイビッドが王子の天幕へ向かったが、そこで目にしたものは寝床の上にデイビッド宛の手紙が一通。
デイビッドへ
僕が帰るまで、何とか他の者にはごまかして。
もし3日たっても僕が戻らなかったら、軍を指揮して王城に総攻撃してくれ。
僕やジェシカが人質になっていても構わず進めて欲しい。
だけど、勝ち目がなさそうなときは、迷わず撤退してくれ。
父上や姉上、侯爵とアンソニーに、申し訳ないと伝えてほしい。よろしく頼む。
グレン
「あんの、バカ王子が!!」
デイビッドは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「やりやがった!やらかしやがった!信じらんねぇ!!どーやってごまかせっつうんだ!!クソッタレ!」
一人でジェシカを助けに向かったことは、容易に想像できた。やはり、切り捨てることができなかったのだ。
二人とも、無謀にもほどがある。
「はー、もうなるようになれだ!!!ぜってぇ帰ってこい、王子、ジェス。俺ぁ総大将なんざ、したくないからなあぁ!!!」
頭をボリボリかきながらデイビッドは恨みがましく小声で叫んだ。
グレンは王城から少し離れた森の中へ、馬をすすめた。目的他の前で愛馬シルビィを木につなぐ。
見覚えのある岩場の隙間を抜けると岩の隙間に隠れ、鉄の扉が見えた。
ここには、昔一度だけ来たことがある。
ロブが教えてくれた王城に至る秘密通路だ。
途中までしか行ったことがないが、王城の中まで続いているとのことだった。
鉄の扉は決まった手順で解錠しなければ毒矢が飛んでくると聞いている。
古い記憶を思い起こし、複数ある鍵穴に刺さったままの鍵を次々とまわす。5つ目の鍵を右に3回まわしたところで扉が開いた。
緊張から解き放たれ、グレンはため息をついた。
うまく王城に忍び込めばジェシカを救い出せるかもしれない。一縷の望みをかけ、カンテラに明かりを灯し、隠し通路へ入った。
本来は、部下を連れて行くべきだろう。
だがそれは思い出を踏みにじるようでどうしても出来なかった。
何もかも自分勝手だとは自覚している。
それでも、ジェシカを救いたい。
女剣士はジェシカの命が惜しければ撤退か降伏をと迫った。
軍を進めないうちは殺されることは無いだろう。
だが…無事である保証はどこにもない。早く助けたい…。
焦る気持ちを抑え、グレンは地下通路を進んだ。
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