幕間 蜜月
満天の星の下、二人だけで改めて永遠を誓う。
思いは高まり、甘く唇が重なり合った。
グレンはジェシカの長衣の裾をめくると、白い足に手を伸ばした。指先が太ももから膝まで何度も行き交う。手入れをしたばかりの肌はしっとりとなめらかだった。
優しい口づけは次第に深くなり、舌が絡め取られる。
「は…ぁ…」
ジェシカはグレンの首に手をまわし、抱きしめる。初めて愛を囁いたあの朝を思い出しながら。
今は身を任せる余裕ができたけれど、あのときは初めてづくしで、ただ身を固くするばかりだった。しかも、かなり痛かった。今とは随分違う。
最近は婚礼の準備もあり、お互いにずっと忙しかったから、こうして触れ合うのも久しぶりでゆっくりとした動きにも、敏感に反応してしまう。
その指先は、夜着の上から身体の輪郭をたどった。優しくなでられると、湯冷めした身体が徐々に火照りだし、息も弾み始めた。
唇が、首筋から胸元へところどころに強く吸い付きながら降りていく。胸の隙間に熱い吐息がかかりもどかしい。夜着の上からばかり触れているからだ。それに…。
「あの、そろそろ中に入りませんか?ここじゃちょっと…」
部屋に続いているテラスとはいえ、流石に外ではためらわれる。顔を赤らめジェシカは訴えた。
だがグレンは止まる素振りもなかった。
「いや、続けよう。ここがいい。」
「は?ここで!?でも、あっ…!や…」
グレンは身体を起こしかけたジェシカの太腿からゆっくりと上に向かい指を這わせた。
夜着の上からさすられ、ジェシカは言葉を詰まらせ真っ赤になった。
「大丈夫。周りからは見えないよ」
確かに、手すりは高めになっていて、ソファに座った位置からは見えないかもしれない。だが。
「恥ずかしがってるのが、かえって燃えるというか…」
「え?今、なんて…」
何やら聞き捨てならない事を言われた気がして、ジェシカは聞き返す。
「ふ、せっかくの初夜だもの。忘れられない夜にしてあげる」
だがグレンは問には答えず、ジェシカの唇を親指でさすりながら、耳たぶに息を吹きかけるように呟いた。
星空を背負った伴侶は、乱れた髪やはだけた長衣が色っぽく、頬を上気させ満足気に微笑み、ジェシカの左手に指を絡めてくる。
そう…。きっとこの光景は一生忘れない。
ジェシカは右手でグレンの頬をさすり、微笑んだ。
翌朝、ジェシカは重たい目を開けた。窓からさす光が部屋を明るく照らしている。
ああ、身体が重い…。
寝不足の頭をゆっくり傾けると、そこにはニコニコ笑みを浮かべたグレンの顔があった。
ジェシカに身体をピッタリつけて、添い寝している。
「おはようジェシカ」
グレンはそう言うと、頬に手を添え軽く口づけをした。
夜半から空が薄っすら白んで来るまでジェシカを攻め続けたと言うのに、疲れなど微塵もない素振りだ。
体力はジェシカも自信があるが、流石にああ何度もでは、とても持たない。
そもそも受け手と攻め手でこうもダメージが違うのが不公平だ。
「ずるい…なんでそんなに元気なんですか。私はこんなにキツイのに」
ジェシカは恨めしげにグレンを見上げた。
目が覚めた瞬間に目が合うなんて、ずっと寝顔を眺めていたのだろうか?
「そりゃようやく念願かなったんだから、当たり前だよ。ジェシカはそんなにきつい?」
グレンは苦笑しながら答える。
「今日はしばらく起きあがれそうにありません。婚礼の宴でクタクタのところにあれだけ激しくちゃ」
ジェシカは言いながら真っ赤になった。昨日の色々がまざまざと脳裏に蘇る。
改めて見ると身体中にいつもより濃い目に赤い痣が点在している。
妃として用意された衣装は胸元まで肌が出るものが多く、恥ずかしくて外には出られたものではない。
そういえば、入浴はこれから侍女がつくとの事だったが、この恥ずかしい身体を見られてしまうのか!?
色々思い巡らせ恥じらうジェシカにグレンも照れ笑いしていて甘酸っぱい空気の中ふんわり抱きしめられる。
「明後日までここで過ごすんだから、起きなくて良いよ。その間は二人きりでいよう?」
「でも、1日このまま過ごすわけにも…」
この部屋には昨日の夜着しかない。
いつの間にか畳んてナイトテーブルに置かれているが。
そういえば、あれほど汗をかいたのに肌はサラリとしている。
グレンが拭いてくれたのたろうか。相変わらず王子とは思えないほどマメだ。
「僕はそのままで構わないけど」
「〜〜〜っ!何をさらりと言ってるんですか!!」
真っ赤になってジェシカが抗議する。
「だってやっと本当に僕だけのものになったんだから。これくらいの独占欲はゆるして?」
甘えるように呟くグレンに、ジェシカの心臓は跳ね上がる。
だから、さらりと何を………!
「元々…あなた以外の人なんていません。そんな心配の必要は……」
ポロリと口からでた本音にグレンは、首まで真っ赤になる。
「ジェシカ、口説いてるのは僕のはずだけど、ホントに天然だなぁ…」
「………!」
まずい、この流れは………!
自ら墓穴を掘ったジェシカは後悔したが後の祭りだ。
「食事の前に、昨日の続きをしようか?」
グレンはジェシカの頭を引き寄せ、甘い口づけを落とす。
「ん……ん、ん…」
身体は限界のはずなのに、柔らかい唇の感触でまた熱がぶり返す。
「はぁ、はぁ…や、優しく…してくれるなら…」
ようやく唇を離してくれたグレンを見上げ、ジェシカは訴える。
「う〜ん、できるかなぁ。まぁ歯止めがきくまでは」
グレンはニコニコと恐ろしい事を口にし、ジェシカは自分の迂闊さにひたすら後悔する羽目にあった。
「食事は隣の部屋に運んでもらってるから、僕が取ってくるよ」
「お願いします………」
給仕までさせるわけには…と思ったものの、もはやジェシカは立ち上がる事もできないほど疲弊していた。
そしてこの段取りの良さ…。色々想定済みではないか…。
ジェシカは枕を抱きしめながら、明後日まで頑張れるのか、不安になった。
身体はふき取ってもらっているものの、入浴もしたい…。一人でゆっくり入りたい…。
グレンの溺愛振りがずっしり重い……。
「身体は起こせるかな?」
グレンはニコニコと食事の乗ったカートを運んできた。
ジェシカを支えて起こし、枕とクッションを背中に当て、手際良く準備してくれる。さすがに裸のままは嫌で、長衣をはおり前をしっかり合わせる。
朝食にはソーセージとサラダ、白身魚ソテーとスープ、フルーツが程よい量もられていた。
「ありがとうございます」
ベッドに簡易テーブルと朝食を乗せたトレーが置かれる。グレンの分はサイドテーブルをベッドサイドに持ってきて、横に並んで座る形になる。
「君と朝食を食べられるなんて、幸せだな」
グレンはなんとも幸せそうに、微笑む。
夜の逢瀬は夜明け前に部屋に帰るのが常だった。寝坊して朝になっても朝食まで一緒にとったことはない。
「確かに新鮮かも…」
ジェシカも釣られて笑う。
「はい、どうぞ」
グレンは、ソーセージを切り分け、ジェシカにさしだす。
「じ、自分で食べられます!」
「僕が食べさせてあげたいんだ。だめ?」
グレンがいたずらっぽく上目遣いでジェシカを見あげる。
「いただきます…」
ジェシカは赤くなりながら差し出されたソーセージを口にした。照れる。
だがグレンはとても嬉しそうだ。
「僕には?」
「ええ!私もですか?」
グレンは更にいたずらっぽく微笑み口を開けてジェシカにせがむ。
ジェシカはとまどいながらも自分のソーセージを切り分けグレンの口に運んだ。
「ん、美味しい。あぁ、いいな…」
もぐもぐ食べてから、グレンは言った。
頬張って食べてる姿はいつもより幼く見え、なんというか可愛らしい。
そんなに喜んでくれるとは…。確かにちょっと楽しいかも…。
「もっと欲しいな」
「はい、どうぞ」
ジェシカが苦笑して更にソーセージを差し出すと、グレンは素直に口を開け…そのままジェシカの指先に唇を寄せた。
「ひゃっ!?ちょ、ちょっと!」
「ごめん、あんまり美味しそうで」
グレンは悪戯っぽく笑い、指先を離さない。ジェシカの耳まで一気に赤く染まっていく。
「……食事中ですよ!」
「うん。食事もスキンシップの一つでしょ?」
「ほら、口あけて」
グレンがスプーンを差し出す。仕方なくジェシカは口を開けて受け入れた。
……と思ったら、グレンはそのまま唇を寄せてきた。
「 ちょ、ちょっと! だから食事中だって…!」
「うん、だから特別に美味しいんだと思うけどな」
悪戯っぽく笑うグレンに、ジェシカは唖然とした。どうしてしまったんだこの人は!
「だ、駄目です!何を食事中にそんなこと!」
「じゃあ……食後ならいいってこと?」
「ち、ちがっ……! そういう意味じゃ……!」
慌てふためくジェシカの抗議にグレンはクスクス笑い、今度はサラダを一口自分で食べ、唇についたドレッシングを指で拭う。
そしてわざとらしくジェシカに向かってその指先を見せた。
「ねぇ、拭いて?」
「っ……! い、いやです! なんてことさせるつもりですか!」
「……じゃあ、僕がしてもいい?」
そう言ってジェシカの頬にそっと触れ、まるでドレッシングでもついているかのように指をなぞり、そのまま軽く口づける。
「んっ……!だ、だから駄目って言ってるのに……!」
必死に抗議しながらも、身体の芯が熱を帯びていくのを止められない。
食事はまるで進まず、ただただ赤面と抵抗に追われるばかりだった。
***********
この2日間、寝るときと食事以外はひたすら肌を合わせてた。
もう、無理だと…。
ほんとに体力の限界だと訴え、始めは加減してくれるものの、それでもまた何度も。
なんでだろう。そのたびに身体は甘く疼いてしまう。
だが、あまりにも疲弊したジェシカを見かねてか、昨日の夕食後から、突然何もしてこなくなった。
色々楽しく話はしている。
甘い雰囲気も出ている。
今は久しぶりに服を着て、バルコニーのソファに座り青く光る湖を眺め、グレンは横に座り静かにジェシカの肩を抱いている。
なのに…。
その指がそれ以上触れてこない。
もう、今日が最後なのに…?
あれほどの熱がピタリと止み、困惑しかない。
明日からは、また政務の日々がはじまるのに…?
飽きられて…しまったのだろうか?
もう?
そう思うと、無性に胸の奥が重たくなった。
「グレン…私、何か至らなかったですか?もう、飽きてしまいましたか?」
ジェシカはいくら考えてもそれしか思い浮かばず、思い切って尋ねてみた。少し、声が震えてしまった。
「え…っ」
グレンは絶句してジェシカを見つめた。
ああ、言葉に詰まってる…。
ジェシカがそれを、肯定の意と思ったその時…。
「いやいやいや、違う!それは違う!」
グレンは首を慌てて振り否定した。
「そんな事、あるわけないだろ!」
「だって…ずっと激しかったのに、昨日の夜から急に…」
ジェシカは下を向き、唇を噛み締めた。
「ち、違う違う!そうじゃない!君、もうフラフラだったし、それに君と1日一緒に過ごせる贅沢、よく考えたらめったにないって気がついて!そう思ったら僕の欲望だけで終わったら勿体ないと思ったから…」
グレンは一気にまくし立てた。
俯いた顔を両手で挟まれ、上を向かされる。
ジェシカはその剣幕に目をぱちくりし、涙を一粒流し、泣き笑いした。
「やだ…。なんでそんなに極端なんですか…それならそうと言ってくれれば」
「ごめん…」
グレンは謝り…そして熱心にジェシカを見つめた。
「僕が君に飽きるなんて、世界が破滅しても絶対にありえないから」
「ふふ…ほんとに極端…」
そしてジェシカはそっと目を瞑った。
しばらくして、求めていた柔らかい感触が唇に、身体中に降り注いだ。
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