ゆりかごになりますように 夜を行くバスのどこかに嗚咽の気配
※こちらのお話は、待花つみきさん(X: @tsumiki_hana)の「ゆりかごになりますように 夜を行くバスのどこかに嗚咽の気配」から着想を得て書かせていただきました(ご本人より許可をいただいています)。
その日は雨だった。夕方からにわかに降り出した地雨は、夜になってもさらさらと降り続いていた。
雨が降ると、バスに乗り込む人々は心なしか俯いているように見える。彼らはただフードをかぶっていたり、傘を畳んでいたり、落ちてくる水滴を避けようとしているだけなのかもしれないけれど。
そんな日はいつも、ゆりかごになりますように、と祈るのだった。一日の終わり、それぞれの家に帰るその前に、このバスが少しでも雨風を凌げるあたたかい場所でありますように。
ふと、座席のどこかから鼻をすする音が聞こえてきた。それはだんだんと間隔が狭くなっていって、次第に不規則な呼吸も混ざりだす。見知らぬ誰かの嗚咽を背に、私は普段よりもさらにやさしくブレーキを踏む。私はあなたの涙のわけを知らないけれど、あなた自身のこともひとつも知らないけれど、それでもあなたを包む世界がやさしくあるように祈ることくらいはできるはずだから。
やんわりと止まったバス、けれどやはりフロントガラスには幾筋もの水が伝う。それを一拍置いて軽やかに拭き取るワイパー。間欠で二往復して、視界が明瞭になったところで信号は青に変わり、私はやっぱりうんと優しく発車させるのだった。
ゆりかごに、なりますように。
次はこの路線の終点。着くまでにはあと三つ交差点を通る。
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