シネマティカ 映画能力戦争
Butaneko
第1話「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
映画。
それは人がまだ空を飛べなかった時代、人に夢を見させた物の一つ。
人を楽しませ、人を驚かせた物の一つ。
人々は上映中、別の人生を生きることができた。
そして、今、映画は人に特別な力を、与えようとしていた…。
「
「ん?あ、ああ。わかった」
メモを渡される。
四つ折りにされたそれには何回も借りて、そして返してを繰り返した映画のリストが書かれていた。
「お前さ、本当にここに入って良かったのか」
「…どういうことだ」
「いや、お前、弓道で全国行ったんだろ?なんでこんな廃部寸前の映画部に…」
俺の顔が曇ったのを感じたんだろう。
それ以上、そいつは何も言わなかった。
映画鑑賞部。
部員はあと1人で定員不足。顧問はいないようなもん。
先代が残した映画は趣味が偏ってるし、やけに古い。
だから、誰かが借りに行かなくてはいけない。
でもみんな借りに行きたくはないから、俺が行く。
それしかやれることがないから。
映画はあまり好きじゃない。
ここにいることでさえ、何かに背いているような気がした。
「お前のせいだ。お前が、あいつの未来を、奪ったんだ」
また、聞こえる。あの声が。
耳に焼き付いて離れない。
「どう責任を取るんだ」
「お前は弓道をやめるべきだ」
そんなことはわかってるよ。
だからやめたんだ。
「ムービーレンタル ゴトウ」
ところどころ錆びついた看板の店に入り、いつもの映画コーナーに進む。
「『トゥルーマン・ショー』か…」
その時だった。
「君、映画、好き?」
声の方を振り向くと、グレーパーカーを着た男がこちらを見ている。
髪は長く、後ろで一つにまとめている。
「え、なんですか?」
「映画、好き?」
なぜだろう。目が離せない。
「好き、ですけど」
とっさに、嘘をついた。
映画が嫌いだと、言えなかった。
「…そうか」
「僕も、好きだよ、映画は」
男は一つのDVDを、棚からおもむろに手に取る。
まるで、台本通りのように。
「え?何して…」
「これを持っていくといい。きっと、君には、必要だ」
「いや、俺もう借りる映画が決まってて…」
「君には、必要だ」
男の目は、俺の視線を掴んで、離さない。
俺は男の手に握られたDVDパッケージを見る。
「でも、お金足りないです」
「いや、これは僕の物だから、大丈夫だ」
「え?」
渡されたDVDに目をやる。
タイトルは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だった。
有名だし、俺は一回見たことがある。
裏にはあらすじが書かれていた。
「1985年の高校生マーティは、友人ドクが開発したタイムマシン「デロリアン」の実験を手伝うが、誤って1955年にタイムスリップしてしまう…」
やはり同じ映画だ。
いやいやいやいや、どう考えてもヤバい人だろ。
「いや、やっぱり返します…え?」
男は、もうそこにはいなかった。
俺は、どうしてもそのDVDを、棚に返すことができなかった。
何か不思議な気持ちが、俺の心を見つめていた。
数分後、レジにもって行ってしまった。
セルフレジ。
このDVDが変な物だったら、店員に変な目で見られるかもしれないからだ。
金が足りなかったら、棚に戻せばいい。
そう自分に言い聞かせた。
会計開始のボタンを押し、DVDについていたバーコードを読み取っていく。
そして、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」についているバーコードを、読み取った。
「…は?」
値段が、0。
返却期限は、無し。
「どういうことだよ…」
家に帰っても、DVDを忘れることができなかった。
持って帰って来てしまったから。
「…なんでだ」
この気持ちを、抑えることができない。
「……見たい」
ものすごく、このDVDが見たい。
今すぐに、DVDを取り出して、再生したい。
呼吸が浅くなる。
親が寝静まった午前1時、俺はリビングに降りて、ビデオデッキのボタンを押した。
内容は、以前見た時と全く変わらなかった。
…でも。
「クソっ…」
涙が止まらなかった。
なんでかはわからない。内容に感動したわけじゃない。
ただ、泣きたかった。この映画に対して、泣くことしか許されない気がした。
エンドロールが流れる。
DVDがデッキから出て来る。
俺は泣きつかれ、もうそのまま寝てしまいたかった。
DVDケースにしまい、蓋を閉めるカチリという音を聞いた時、俺は違和感を感じた。
「あらすじが、変わってる?」
ケースの裏に書かれたあらすじは、変化していた。
「一定の速さを超えた物を未来、または過去に飛ばすことができる…」
読み上げても意味がわからない。
俺は目線を下の方へやる。
「能力名『バック・トゥ・ザ・フューチャー』」
その時だった。
俺の体を、まばゆい光が、包み込んだ。
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