優しさが一番怖い

 教室の「隣の席」にいるのは、ただの物静かな優等生の女の子のはずだった。
忘れ物をしたとき、ピンチのとき、なぜかいつも都合よく差し出される「助け」。
優しさと好意のはざまで揺れる神山くんの一人称が、とにかくリアルで息苦しくて、でも読み進めてしまう感覚です。

 学校での違和感から、家庭にまでにじみ出ていく「おかしさ」の描写が絶妙で、派手なホラー要素に頼らず、空気そのものをじわじわ不穏にしてくるタイプの作品です。
 登場人物はみんな“普通”の顔をしているのに、会話の端々や行動が少しずつズレていて、そのズレが次第に大きな不安へと変わっていく感覚がクセになります。

 恋愛とも友情とも言い切れない、この歪んだ距離感がどこへ向かうのか。
 独特の空気に浸されたい方、静かに胃がキリキリする物語が好きな方に、ぜひおすすめしたい一作です。

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