第54話 料理人、新しい町に向かう
「ハルトさん、本当にもう行くんですか?」
「次は俺の領地に来てくれてもいいんだぞ?」
「お前は静かにしろ」
「なんだと!?」
今日も領主の二人は啀み合っている。
でも、本当は仲が良いんだと思うと何も心配はないし、むしろ少し慣れてきた。
地図を受け取った俺たちは次の日にはフロランシェを旅立つことにした。
この町にいたらキッチンカーよりも、屋敷の中で働くことが多いからな。
ただ、料理を教える楽しさや食べた人が楽しんでくれる嬉しさはもちろんだが、食事の時間そのものが変わっていく光景を間近で見られたのは、何よりの経験だった。
静かに食べていた屋敷の中も、今では笑い声が混じる〝食卓らしい空気〟が流れている。
そんな当たり前のことが料理によって、少しずつ変化した。
「じゃあ、お世話になりました」
「元気にな! 良かったらこれも持っていくといい」
俺はフロランシェの領主に何か紙を渡された。
「これは何ですか?」
文字が読めないため、俺が首を傾げていると領主はニヤリと笑った。
「婚姻届だ」
「いらねーよ!」
ついついその場で突き返そうかと思ったが、なぜかブレッドンの領主にも同じものを渡された。
俺はおっさんキラーにでもなったのだろうか。
返してもズボンのポケットやら、服の中に入れられるため、渋々諦めてもらうことにした。
すでにゼルフと白玉はキッチンカーの中で待っているしな。
「ショート、ベイカーも仲良くな!」
「私はお父様より素直だから大丈夫です」
「僕も同じく父上よりは大人なので」
本当にあの領主から生まれた子どもなのかと思うほど、子どもたちの方が大人びている。
きっとこの先も仲が良い領地関係が築ける気がする。
「それはよかった。お前たちも立派な料理人になって、少しでも美味しい料理を広げてくれ」
「「「はい!」」」
見習い料理人も今後の成長が楽しみだ。
料理長はすでに話しているから特に話すことはない。
ジーッとこっちを見ているが、ここにきてゼルフよりも一緒にいたのが料理長だからな。
俺はキッチンカーに乗り込んで、すぐに次の町に向かって走っていく。
「なぁ、婚姻届をもらったんだけど、本当にこれって婚姻届か?」
俺は領主たちにもらった紙をゼルフに渡す。
婚姻届けにしては文字が少なく、金色に輝くマークのようなものが入っていた。
「いや、これは推薦状だな」
「推薦状……? 何に推薦するんだ?」
「簡単に言えばフロランシェ、ブレッドンの領主がハルトの味方になったってことだな」
ゼルフの言葉を聞いて、俺は思わずブレーキを強く踏んでしまった。
「うぉ!?」
『クゥエ!?』
急ブレーキにゼルフと白玉は前に飛び出しそうになっていた。
まさかそんな物を渡されるとは思いもしなかった。
まだ、フロランシェなら長期間いたから100歩譲って理解はできる。
でもブレッドンの領主は短時間しか関わってない。
それなのに推薦状を渡すということは、それだけラーメンとうどんの衝撃が強かったのだろう。
「これって結構すごいことなのか?」
「あー、ハルトが悪いことをしたら、あの二人が責任を取ってくれる証明みたいなものだからな」
「貴族の二人が……はぁー」
俺は大きなため息をつく。
ある意味悪いことをするなよと言っているような物だ。
特に使うことがないといいんだけどな。
とりあえず、助手席の前にあるグローブボックスに入れておこう。
俺は再びキッチンカーを走らせる。
「次はどこに行くつもりだ?」
「んー、地図をもらったけど、どっちが楽しそう?」
この先は山が多くある鉱山地帯か大きな町が描かれた都会に分かれている。
鉱山地帯から先は山しかないから、結局は後戻りしないといけないんだが――。
「こっちの方は魔物が多いから魔石が集めやすいぞ」
『魔石集めはゼルフがしてくれるぞ!』
「それなら鉱山地帯に寄ってから、都会に遊びに行く方がいいか」
時間はいくらでもある。
ただ、ガソリンの代わりになる燃料には限度があるからな。
魔石って思ったよりも高いし、買うよりもゼルフたちに取ってきてもらった方がコスパが良い。
それに――。
「美味しいジビエ料理でも作るか!」
「『賛成!』」
魔物の肉を使った料理も覚えた方がどこかで役に立つかもしれない。
俺たちは鉱山地帯に向けて、キッチンカーを走らせた。
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【あとがき】
第二章ここで終わりです!
ひとまず一旦休憩かゆっくり更新になります!
引き続き⭐︎評価とレビューをどんどんお待ちしております!
レビューまだの人は書いてくれてもいいんだよ| |д・)?
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