第22話 料理人、始まりはお馴染みのチキン料理

「くぅー! やっぱりハルトのご飯が一番だ!」

『オイラなんて、ガリガリになっちまったぞ!』


 すぐにご飯を炊いて、簡単におにぎりとお味噌汁を作っただけでゼルフと白玉は舞い上がっていた。

 一日食べてないだけで大袈裟な気もするが、この町のご飯を食べた一人としてはそう思うのも仕方ない。


「やっぱり日本食はいいな……」


 お米本来の甘さと味噌汁の優しい香りが、体全体に染み渡る。

 いつのまにか全身の力が抜けてホッとしていた。

 俺ですら日本食の良さを再認識するぐらいだから、ゼルフと白玉はよほど日本食の虜になったのだろう。


「これは日本食っていうのか……」

「あぁ、俺の故郷である日本って料理だな」

「日本……どこかで聞いたことあるような……」


 ゼルフは静かに考えだした。


「何か知ってることはあるのか?」


 俺はゼルフを問い詰めるが首を横に振っていた。


「いや、俺の勘違いだな」


 貴族であるゼルフなら何か情報を知っているのかと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。

 それにもし日本の情報があったら、同じ地球ってことになってしまう。

 魔法やステータスが地球にあるはずがない。

 そんなものが実際にあったら、日本のオタクたちは黙っていないからな。


「いや、気にするな。キッチンカーが元に戻っただけでも良かったからな」


 キッチンカーが使えるだけで、今の俺にとったら朗報だ。

 今後もキッチンカーと共に過ごせるんだからな。


 ご飯を食べ終わった俺は一度運転席に戻り、モニターでステータスの確認をする。


【ステータス】

キッチンカー Lv.2 ポイント:2

ナビゲーション 1

自動修復 1

キッチンカー拡張 1

調理器具拡張

電力拡張ユニット

冷蔵/冷凍拡張ユニット

給水タンク拡張 1

排泄拡張

ディスプレイ


◇次のレベルアップ条件:1日売上 30,000円到達・・


「まだ2ポイントあるのか……」


 キッチンカーで営業ができるようになった今、レベルアップするにはお金を稼がないといけない。

 一度自動修復を押してみたら、〝自動修復可能まで一カ月〟と表示されていたから、定期的に修復はできるようだ。

 そうなれば、今はポイントを使ってキッチンカーでより商売しやすくするのが第一優先となる。


「今、営業に必要なもの……これだ!」


 俺は電力拡張ユニットを押す。


――ポイントを振りますか? はい/いいえ


 俺は迷わず〝はい〟の選択をする。

 キッチンカーの拡張をするまで、押すこともできなかったからどうなるのか気になっていた。

 使える電気の量が増えれば、ガスコンロがなくてもどうにかなるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら押した。


――キッチンカーの拡張を行なってください!


「まだ足りないのかーい!」


 一度キッチンカーの拡張をしたのに、まだ足りないとは思いもしなかった。

 俺はすぐにキッチンカーの拡張を選択してから、すぐに電力拡張ユニットを押す。


――ガタガタ……ガタンッ!


 一気にポイントを割り振った影響でキッチンカーの揺れは普段よりも大きくて長かった。

 それに最後は大きく下に沈んだような気がした。

 俺は外に出て、何かが変わっていないか確認する。


「ハルト、上に何かついたぞ?」

「上……?」


 俺が視線を上げると、キッチンカーの上にあるものが装着されていた。


「ソーラーパネルか……」


 キッチンカーの天井には隙間なく、ソーラーパネルが敷き詰められていた。

 キッチンカーを拡張しないと、置けないのは確かだ。

 太陽光で電気を集めて使えってことだろう。

 ただ、見た目がそこまでの変化がないのに、キッチンカーを拡張する必要性があったのだろうか。

 相変わらずキッチンカーの仕組みは変わらない。


「よっ、兄ちゃんたち今日も何か作るのか?」


 そんな俺たちに冒険者が声をかけてきた。

 気づいた時には一旦町に帰ってきた冒険者たちの列ができている。


「今日は……いや、すぐに作りますね!」


 キッチンカーが修復されたことで、材料や調味料はいくらでもある。

 すぐに冷蔵庫を開けて、俺は材料を取り出していく。


「おい、まさかあれを作るんじゃないか?」


 やっぱりキッチンカーで食べて欲しい料理と言ったらあれだからね。


「くくく、そのまさかだよ。ゼルフ、手伝ってくれ!」

「おう!」


 俺とゼルフは一緒にキッチンカーで調理を始めていく。

 っていってもゼルフは簡単な作業を手伝うしかできないし、ほぼ応援みたいなものだ。


「ゼルフ、ゆで卵を作ってくれ!」

「それなら前見ていたからできるぞ!」


 俺は水を沸かした鍋に卵を入れるようにゼルフに声をかける。

 その間に玉ねぎや漬物を細かく刻んでいく。


「ゆで卵ができたらこの間みたいに頼むぞ」


 事前にボウルにマヨネーズ、細かく刻んだ玉ねぎと漬物を入れて渡す。

 ゼルフに大事なものを任せたら、後は俺の出番だな。


 食べやすいサイズに切った鶏もも肉を溶き卵に通して、小麦粉を両面につけて揚げ焼きしていく。

 ジュウッと油の弾ける音がキッチンカーから広がり、空腹を刺激する。

 電力拡張ユニットの影響なのか、電気コンロを二口使ってみたが問題なく動いていた。


「まだできないのか?」

「こんな匂いを嗅がされちゃ堪らないだろ」


 次第に外にいる冒険者の声は大きくなる。

 一口サイズの鶏もも肉にタレを絡めたら、縦長のプラスチック容器に詰めていく。


「ハルト、タルタルソースできたぞ!」

「じゃあ、ここに入れてくれ!」


 ゼルフに容器ごと渡したら、上からたっぷりとタルタルソースをかけていく。


「チキン南蛮とおにぎりのセットはいかがですかー!」


 俺の声に冒険者たちは手を上げた。

 やっぱりキッチンカーの始まりといえばチキン南蛮だからな!

 今回は移動しやすいようにチキン南蛮を食べ歩き用のカップに入れているし、おにぎりはラップで包んでいる。


「なんだこれ!」

「この町にこんなうまいもんはないぞ!」


 次第に冒険者の声が大きくなり、近くを通っている人も足を止めていく。


「家に持って帰っても大丈夫か?」

「もちろんキッチンカーでの販売は持ち帰りできるようになっているからね!」


 どうやらチキン南蛮は異世界でも大人気商品になりそうだ。

 ただ、せっかく移動しやすいように食べ歩き用カップに入れたが、冒険者はその場で食べるものばかりだった。

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