第21話 嘘じゃない
「ごめん、全然気づかなくて……」
俺はただ、そう絞り出すことしかできなかった。俺に向けられた感情が隠されていたなんて、まるで考えもしなかった。前世が王女だったこともあるだろうか、女の子に好意を向けられているなど考えもしなかったのだ。
深月は、静かに鼻をすすった後、寂しそうに微笑んだ。
「いいの。わかってたから。これまで何もアクションを起こさなかった、私が悪いんだもん」
彼女はそう言いながら、屋上の扉にもたれかかるように立ち上がった。涙の跡が頬に残っている。
「でも、あの先生は……危ないよ、陽翔くん」
深月の声は、告白の羞恥から一転、真剣な心配の色を帯びていた。
「教師のくせに、こんなに大事な時期の佐伯くんに手を出そうとするだけじゃなく、色んな女の人と関係を持ってる。あの人は、佐伯くんを遊んでるだけだよ。遊ばれちゃうよ」
深月の意見は、最もだ。天城陵の行動は、最低のクズ教師の振る舞いだ。
俺はなんと返そうか悩んだ。ここで、すべてを話すわけにはいかない。前世の話なんて、誰にも信じてもらえるはずがない。
「大丈夫だよ」
俺は、精一杯の平静を装った。
「天城先生の、その女関係のことは知ってるから。……それに」
そこまで言って、言葉に詰まる。この場で、天城先生の歪んだ原因を説明するには、前世の話を持ち出さなければならないが、それは無理。しかし、深月を納得させるには、それしかないのでは…。しばし逡巡し、閃いた。
「それに、ああなったのは、俺のせい、というか……」
深月は不思議そうな顔をした。
「え?二人は、以前から知り合いなの?」
俺は頬をかいた。
「実は……天城先生は俺の初恋の相手、なんだよね」
深月は、驚きで目を見開いた。
「だいぶ前の話だけど。でも、俺が天城先生を裏切るようなことをしてしまって、彼を傷つけちゃったというか……。天城先生のトラウマを作ってしまったというか……」
(裏切ったのは俺じゃないけど)
元々ルシアンとエリシアが婚約したことが、俺たちの破滅の元凶だ。その意味では、俺が破滅のきっかけを作ったと言える。
「だから、俺のことを恨んでるのかもしれない」
深月は、口元を手で押さえたまま、驚きで固まっている。
「やだ、二人にそんな過去が……?!リサーチ不足だったわ」
深月は、急に頭を下げた。
「ごめんなさい!私が勝手に、先生が佐伯君を誑かすクズ野郎だと思って、あんなひどいことを……」
深月は、俺の言葉を都合よく、そして前向きに解釈してくれたようだ。その純粋な誤解に、俺は胸が痛んだ。
「じゃあ、天城先生は佐伯君との過去がきっかけで歪んでしまったということ?それを、佐伯君が正しい道に戻そうとしてるのね」
深月は、自分で納得したように頷いた。
「わかった。天城先生を、清く正しい教師の道に導きましょ。佐伯くんの初恋の相手を、最低のクズ野郎のままにしておくわけにはいかないわ!何かお互い誤解があるのかもしれないし。」
彼女は強く決意を込めた目つきで俺を見た。
「私にもできることがあったら手伝うから。今回の罪滅ぼしとして。二人を引き離すんじゃなくて、正しい道で結びつくように、私、協力する!」
こうして、想定外の新たな協力者が生まれたのだった。
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