ゴーストハウス・ガーデナー:異世界転移した私が、幽霊屋敷を希望の光(ひかり)で満たすまで

海豚寿司

第1話 異世界の夜明けと青白い住人たち

水無瀬こゆりが目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中だった。


(ここ、どこ・・??)


バイト先からの帰り道。

帰るのが遅くなってしまって、近道をしようといつもは通らない暗がりの道を選んだ。田舎の道は街灯がないと真っ暗で、夜空の星が眩しく見える。


「星がきれいで、眺めながら歩いてて、それで・・」


水路に、落ちた・・?


あっと思った瞬間には目の前が完全に真っ暗になり、滑らせたと思った足が地面についた。そして現状である。


「気絶して夢でもみてるのかな」


あたりを見渡しても木、木、木。

とりあえず立ち上がり、歩き出してみる。


「道って感じではないよね、これ」


完全な森の中。道とはいえない道をとりあえず進んでみる。

今が何時なのかさえもわからない。ただでさえあたりは暗いのに、進むにつれ霧のような白い靄につつまれていく感じがする。


だいぶ歩いたところで、森が開けた。


「なにこれ・・!大きな家・・!」


目の前に現れたのは霧に霞む巨大な洋館。

こゆりは恐る恐る敷地に足を踏み入れる。夢だとわかっていても、一人ぼっちの世界というのは心細いものだ。荒れ果てた庭を突っ切り、扉の前に立つ。蔦に覆われた重厚な扉には鍵がかかっておらず、すんなり中に入ることができた。

中はホコリと苔に覆われた廃墟。しかし、どこか不思議なほど心が落ち着く場所だった。


「ひゃっ...!」


屋敷のホールで、突然冷たい風と共に3体の人影が現れた。


「人間よ!」

「これはこれは珍しい」

「・・・・・・」


メイド、執事、子供。彼らはこゆりを見て驚きながらも、興味津々といった様子で近づいてきた。


「う、浮いてる?!」


近づいてきた3人には足がなく、心なしか体も透けている。


執事が腕を組み、冷ややかに言った。

「我々は屋敷に縛られし者。我々に危害を加えない限り、好きにするがいい。」


3人は静かに距離を置き、こゆりの存在を傍観する態度を取った。


どうやらこの3人は幽霊らしい。いかにも夢の中といった感じだ。

幽霊たちの視線を感じながらも、こゆりの胸中は決まっていた。


「この夢が醒めるまではここにいよう!もしかしたらすごい時間がかかるかもしれないし。頭の打ちどころが悪かった可能性だってある。ここを居心地のいい場所にする!」


こゆりの職業病、いや、花屋でのアルバイトで培った魂が騒ぎ出す。

あの荒れ果てた庭を見た時からそわそわしていたのだ。あの庭いっぱいに花を咲かせたらどんなに綺麗だろうか。


けれどまずは掃除から。ホコリまみれの家具を磨き、窓の汚れを落とす。割れた窓には布を張り、簡易カーテンに。


最初は傍観していた幽霊たちも、こゆりの姿に少しずつ変化を見せ始めた。


子供の幽霊が、こゆりのそばをふわふわと漂い始める。

「お姉ちゃん、これなに?あかい葉っぱ...」

こゆりが拾い上げた古い紅葉の葉に、幽霊は興味津々だ。


メイドの幽霊は、こゆりが古い布を洗っているのを見て、そっと囁くように助言した。


「お嬢さん、その布は洗濯室の裏にある泉の水で清めると、汚れがよく落ちますよ...」


執事はその様子をただ眺めているだけだったが、こゆりがホールの崩れた天井を見て途方に暮れていると、古い図面を差し出すように、その場所の修繕に使える資材の隠し場所を教えてくれた。


「…まったく、見ていられませんな。屋敷(わたくしども)の歴史を汚すのは許しがたい。」


掃除と修繕を進める中で、こゆりは埃まみれの書斎で一冊の古びた本を発見する。


『魔法薬学と植物魔導の基礎』


この世界では、魔力を込めることで、植物の力を最大限に引き出し、ポーションや特別な作物を作り出せると書かれていた。


「すごい!私、植物のことはわかる。これなら...!」


こゆりは庭に出た。かつて美しかったであろう庭は、雑草と毒々しいキノコに覆われていた。しかし、よく見ると、薬効のあるハーブや、珍しい花も自生している。


こゆりは、本に書かれたとおりに魔力を込める仕草をしてみた。

微かにだが、体が暖かくなった気がする。


メイドが感心したように微笑んだ。

「...この屋敷の『庭』に、また命が吹き込まれる。ああ、お嬢様もきっと喜んでおられるでしょうね。」


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