優しい一声で私は。

夕凪あゆ

第1話


君の声は、不思議だ。

静かなのに、ちゃんと届く。

風に乗るように、

心の奥のやわらかい場所まで。


派手じゃない。

誰よりも穏やかで、

言葉を急がないその人柄が、

胸の中で少しずつ灯になっていく。


私が迷った夜、

君は何も責めなかった。

ただ、「大丈夫」とも言わなかった。

その言の葉の中に、

ちゃんと寄り添う温度があった。


あの時、気づいたんだ。

優しさって、

触れないことでも伝わるんだって。

君の仕草ひとつが、

私をまっすぐに包んでいった。


目が合うたび、

少しだけ呼吸が揺れる。

その理由を、

まだ名前にできなくて。


でも、君が笑うと

世界がやわらかく見える。

心の棘が、

ゆっくり溶けていくようで。


ほんの短い会話の中にも、

君の心が滲んでる。

誠実な人だって、

それだけでわかる。


私はまだ、君の隣にはいない。

けれど、

君の優しさが遠くからでも伝わるだけで

今日を乗り越えられるんだ。


君が誰かと笑う時のまなざしさえ

まぶしいと思う。

それが私でなくても、

君が幸せでいられるなら、

それでいいと思ってしまう自分が、

少しだけ切ない。


それでも。

いつか、君の言葉の中に

私の名前が混じる日を、

ほんの少しだけ、夢に見てしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい一声で私は。 夕凪あゆ @Ayu1030

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ