治癒
「ベッド……フカフカだった。気持ちよく寝れた。あれが、ベッド……ふわふわ。もふもふ。ふわふわ」
奴隷商からアレナを買い取った次の日の朝。
一晩寝て起きても冷めやらぬ高級宿のベッドの寝心地に驚愕しているアレナを連れて僕はウィリアムズ家の屋敷へと帰ってきていた。
「思ったよりも実りある旅になったな。普通にこの世界を旅するだけでも十分すぎる娯楽だ」
流石は異世界。
僕の知る世界とまったくもって文化も歴史も違う国の街並みだ。ただそれを見て、そこを実際に見て回るだけでも海外旅行さながらの満足感を得られる。
ゲームの主人公であるアリナも結果的に自分の手中に収められたわけだし、完璧な一日だった。
「お坊ちゃまぁァァァアアアアアアアアアアアア!?」
満足して帰ってきた僕だが、そんな僕を出迎える爺やは白目をむきながら絶叫していた。
「こんな時間まで……ほんと何処に行っておられたのですか!?もう朝ですよ!?」
「良いだろ?俺の自由だ。ちゃんと今日には帰ってきた。それと、女を拾ってきた。ここで住まわす」
「誰ですかお坊ちゃまァァァアアアアアアアアアアアアアア!?」
「爺や、うるさい」
いきなり叫ぶな。
キャラ崩壊が早すぎる。もしも、この物語がウェブ小説なら登場から三話目でのキャラ崩壊ってとこだよ。あまりにも早すぎる。もうちょい耐えろ。
「何という!?」
「俺の道のりを止めようとしてくるな……うーん。まずは風呂だな。うん。風呂にする」
昨日は疲れて風呂に入らず寝てしまった。
そのせいで僕も少しべたついているし、アリナはもう大変なことになっている。全身ボロボロだし、普通に悪臭を発している。奴隷だったのだから、当然なんだけどね。
まずは綺麗にしてあげよう。
「爺や。風呂の用意をしろ。俺はまず、こいつの手当てをする」
「お、お坊ちゃまが……手当を?」
「ァ?俺がやるのが一番確実だろ。さっさと風呂の用意をして来い」
「いえ、既に風呂の用意は出来ております。いつでもごゆるりとおくつろぎ下さい。本日のご予定は既にキャンセルしてしまった後にございます。
「おっ、マジか。そりゃいいこと聞いた。今日の予定はつまらない程度の低い授業だったからな。ちょうどいい」
「……お坊ちゃま。どうか講師の方にそのような態度を見せるのはっ」
「そこまで俺も馬鹿じゃねぇ。おい。ベンチもってこい。座らせる」
「ハッ」
爺やに用意させたベンチへと僕はこれまで魔法で浮かせて連れてきたアリナを座らせる。
「おい、今から手当するぞ。少し痛むが気にするな」
「……ンハッ。て、手当なんて!そ、そんなの私にはもったいな!」
「ん?俺の奴隷だぞ?その時点でお前は凡たる者の上に立ったのだ。お前は多くの物を享受できる立場にある。慣れろ」
怪我として主に酷いのは足の平だった。
僕は地面に膝をついてアリナの足を持ち、手をかざす。いくら神童と言えどもまだ五歳。至近距離から手をかざしての距離でないと回復魔法は使えなかった。
「……!?ぁえっ……えっと、主様!そ、そんな膝をつくなんて!?」
「……お、お坊ちゃまっ!?」
「ゼノで良い。様はつけろ」
「ぜ、ゼノ様っ!?」
「うし。治癒は済んだ。足は平気か?」
「は、はいっ!」
「当然だ。俺が治癒したのだからな。あとの細かな傷は脱衣所でだな。歩けるだろう?」
もう既にウィリアムズ家の屋敷の中だ。
庭であっても柔らかな芝生が地面を覆っている。素足であっても痛くはないだろう。
「は、はいっ」
「よし。では、ついてこい」
「はいっ」
未だ少し、困惑している様子のアリナを連れて僕は脱衣所の方へと向かう。
うちの屋敷の風呂はスーパー銭湯くらい広く、露天風呂つきだ。
貴族に転生した恩恵をまざまざと感じるよね。
「これから風呂に入るぞ。まず、お前も脱げ」
「……ッ!?!?」
無駄にデカい屋敷を進み、脱衣所の中に入った僕は服を脱ぎ、全裸となってアリナの方に話を振る。
「何だ?脱がんのか?……どうせぼろ布だ。燃やしてしまうか」
服も脱がず、呆然とこちらを眺めていたアリナの服だけを僕は綺麗に炎の魔法で燃やす。
「ひゃっ!?」
そんな僕に対し、アリナはまず可愛らしい悲鳴をあげて両手で全身を隠そうとする。
その頬は真っ赤に染まっており、こちらに向けてくる視線も何処に向けていいのか困惑するようなもので、時折視線が下にも下がる。
……あぁ、アリナは一応七歳。小学一年生。
一応、恥とかもあるのか。
「は、はずか……」
「何がだ?」
とはいえ、いくら僕と言ってもリアル七歳児の裸を見てブヒブヒ言うほど人間辞めていない。
精神年齢がちょっと違い過ぎるね……まぁ、肉体年齢で言えば僕の方が二歳下だが。
体を見なきゃ何処を怪我しているのかもわからない。擦り傷多めだし、ここで治癒しておかないと風呂で染みる。ここは我慢してもらおう。
「粗方の傷はこれで終わりだな」
さっさと全身を触診し、全ての傷を魔法で取り除いた僕は手元に宿らせていた治癒の光を解く。
「よし!風呂に入るぞ!さっさと体を清めるのだ!」
そして、僕は意気揚々とアリナを連れて風呂へと入るのだった。
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