エピローグ「嵐のあとの祝福」

 すべての戦いが終わってから、数年の月日が流れた。

 レオニールは父王から王位を継承し、賢王として国を見事に治めていた。そして、その傍らには、常に優しく微笑む王妃――シオンの姿があった。


 シオンは、兄や海の仲間たちの協力のもと、古代の魔法を学び、人間の姿と人魚の姿を自由に行き来できるようになっていた。普段は人間の姿でレオニールを支え、時には人魚の姿に戻って故郷の海へと帰り、陸と海の架け橋として重要な役割を果たしていた。


 かつて「嵐を呼ぶ」と恐れられた彼の歌声は、今では国中の人々の心を癒す「祝福の歌」として、誰からも愛されていた。彼が国の式典で歌うたびに、作物や家畜は活力を得て、国はますます豊かになっていった。


 陸と海の交流は盛んになり、港町は常に活気に満ちている。かつて人間を恐れていた人魚たちも、今では人間の船乗りたちと陽気に言葉を交わすようになった。二つの世界は、かつてないほどの平和と繁栄に満ちていた。


 ある晴れた日の午後。

 王城のバルコニーで、レオニールは眼下に広がる城下の賑わいを眺めていた。人々の楽しげな話し声、市場の喧騒、子供たちのはしゃぐ声。そのすべてが、彼にとっては愛おしい音楽だった。


「どうしたの、レオ?そんなにこやかな顔をして」

 隣に寄り添ったシオンが、首を傾げて尋ねる。


 レオニールは、そんなシオンの腰を優しく抱き寄せると、彼の耳元に顔を近づけた。

「この世界に満ちている、すべての音を聞いているんだ。民の歓声も、遠くの鳥の声も。だが…」


 彼はそこで言葉を切ると、シオンの額に優しくキスを落とした。


「…やはり、君の声が聞けるこの世界が、何よりも美しい」


 その甘い囁きに、シオンは幸せそうに頬を染める。

「僕もだよ、レオ。あなたの優しい声を聞ける毎日が、宝物だ」


 二人は見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。

 民衆の歓声が、まるで二人のための祝福の歌のように、いつまでも青空に響き渡っていた。

 二人が紡ぐ幸せな日々は、これからも、永遠に続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ