第21話「二人が紡ぐ永遠の未来」

 すべての戦いが終わり、叔父は騎士団に捕らえられた。正気を取り戻した魔女は、自らの罪を償うことを誓い、王国の監視下に置かれることとなった。古代遺跡には、嵐のあとのような、穏やかな静けさが戻っていた。


 レオニールは、まだ自分の耳に聞こえるものが信じられないといった表情で、呆然と立ち尽くしていた。


「レオ…僕の声、聞こえる…?」

 シオンが、おそるおそる尋ねる。その声は、レオニールが想像していた以上に、甘く、そして優しかった。


「ああ…聞こえるよ、シオン」

 レオニールは、感極まったように、掠れた声で答えた。そして、シオンの元へ歩み寄ると、その体を強く、強く抱きしめた。

「君の声だ…初めて、君の本当の声が聞こえる…。なんて、美しい響きなんだ」


 初めて聞く愛の言葉を、シオンは全身で受け止めた。呪いから解放されたレオニールと、本当の声で愛を伝えられるようになった自分。二人の間には、もはや何の障壁もなかった。


「僕も、レオの声が聞けて、嬉しい…」

 シオンがそう言うと、レオニールは悪戯っぽく笑った。

「私の声は、あまり美しくはないだろう?」

「ううん。世界で一番、素敵な声だよ」

 二人は見つめ合い、幸せそうに微笑んだ。


 この一件により、海の神殿との長年の誤解も完全に解けた。シオンの兄は、レオニールに深く感謝し、二つの世界の友好を固く約束した。シオンは、もはや「災いを呼ぶ」と疎まれる存在ではない。陸と海を繋ぐ、平和と希望の象徴となったのだ。


 数ヶ月後。

 王都では、レオニール王子と、海の国から来たという不思議な青年シオンの、盛大な祝賀式典が開かれていた。それは、二人の英雄を讃えると共に、二人の結婚を祝う宴でもあった。


 王城のバルコニーに立った二人に、民衆から割れんばかりの歓声と祝福が送られる。

 レオニールは、初めて聞くその賑やかな歓声に、眩しそうに目を細めた。そして、隣で幸せそうに微笑むシオンの手に、そっと自分の手を重ねる。


 太陽の下で、シオンの銀の髪がキラキラと輝いていた。レオニールは、多くの人々の前で、その美しい頬に手を添え、愛おしげに囁いた。


「シオン」

「なあに、レオ?」

「愛している」


 初めて雑音なしで聞いた、民衆の祝福の音。風の音。そして、愛する人の優しい声。

 呪いから解放されたレオニールにとって、この世界は、あまりにも美しく、愛に満ちていた。

 彼は、そのすべての祝福に応えるように、シオンの唇に、永遠の愛を誓うキスを贈るのだった。


 陸の王子と海の王子。

 二つの孤独な魂が出会い、紡いだ愛の歌は、世界の呪いを解き、二つの世界に永遠の平和と祝福をもたらした。二人の幸せな物語は、ここから、未来永劫続いていく。

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