第18話「陸と海、決戦への誓い」

 叔父と魔女が古代遺跡へと逃亡したという報せは、すぐに離宮のシオンと、海で待機していた兄の元にも届いた。いよいよ、最後の戦いが始まろうとしていた。


 シオンの心には、恐怖よりも、愛する人と共に戦うという強い決意が満ちていた。もう、誰かに守られるだけの存在ではいたくない。この「破邪の歌声」は、レオニールを守り、陸と海の平和を守るために使うのだ。


「レオ、僕も行く」

 シオンは、決戦の準備を進めるレオニールの元へ駆け寄り、彼の目を見てはっきりと告げた。

 レオニールは一瞬躊躇したが、シオンの瞳に宿る強い意志を見て、静かにうなずいた。もはや彼は、守られるべきか弱い存在ではない。共に未来を切り開く、対等なパートナーなのだ。


「ああ、一緒に行こう。そして、我々の手で、すべてを終わらせるんだ」


 二人は、固く手を取り合った。その時、離宮の庭に、シオンの兄が海の仲間である屈強な人魚の戦士たちを率いて現れた。


「我らも、共に行く。陸の争いに海が介入するのは本意ではないが、裏切り者の始末は、我らの責務でもある」

 兄は、レオニールに向かって言った。叔父と通じていた海の野心家一派は、既に兄たちによって捕らえられたという。残るは、地上にいる叔父と魔女だけだった。


 こうして、陸と海の垣根を越えた共同戦線が張られた。

 レオニールが率いる王国の近衛騎士団。そして、シオンの兄が率いる人魚の精鋭部隊。彼らが、シオンとレオニールを支える力となる。


 決戦の地、海辺の古代遺跡へ向かう前夜。

 レオニールとシオンは、二人きりで静かな時間を過ごしていた。


「怖いか?」

 レオニールが紙に書いて尋ねる。

 シオンは、静かに首を振った。

「怖くない。レオが、隣にいるから」


 その言葉に、レオニールは愛おしさが込み上げ、シオンを優しく抱きしめた。

「必ず勝とう。そして、戦いが終わったら…」

 レオニールはそこで言葉を止め、シオンの唇に優しいキスを落とした。

「…君のいる、平和な世界で、君の歌を毎日聞いて暮らしたい。それだけが、私の願いだ」


 その言葉は、シオンにとって何よりの約束だった。

(僕も、レオの優しい声が聞こえる世界で、ずっと一緒にいたい)

 呪いが完全に解け、レオニールが雑音のない世界を取り戻すこと。それが、シオンの心からの願いだった。


 翌朝、夜明けと共に、彼らは決戦の地へと向かった。

 陸と海の平和を守るため。

 そして何より、愛する人と共に生きる未来を手に入れるために。

 シオンとレオニールの最後の戦いが、今、始まろうとしていた。

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