第12話「呪いに隠された王家の陰謀」
シオンの兄という海からの脅威が去った後、レオニールは別の問題に直面していた。それは、自分自身にかけられた呪いの根源。眠り病の一件で、王都に邪悪な魔女の気配が残っていることを感じ取ったレオニールは、この機に呪いの正体を徹底的に調査することを決意した。
彼は、王家に仕える隠密部隊に命じ、自分が呪いをかけられた数年前の出来事を洗い直させた。当時は幼く、権力争いの渦中にいたため、誰が敵で味方かもわからない状況だった。しかし今なら、冷静に真相を突き止められるはずだ。
調査は、すぐに一つの線に繋がった。
レオニールに呪いがかけられた時期と前後して、彼の叔父である公爵が、不審な魔術師と密会を重ねていたという目撃情報が複数見つかったのだ。その魔術師の人相書きは、眠り病を流行らせた魔女の特徴と酷似していた。
レオニールの叔父は、温厚な人物として知られているが、それは表向きの顔。兄である現国王にコンプレックスを抱き、虎視眈々と王位を狙っているという黒い噂が絶えない人物だった。
「やはり、叔父上が…」
報告書を読んだレオニールの目に、冷たい光が宿る。
叔父の狙いは明白だった。王位継承権を持つ甥、レオニールを呪いによって心身ともに衰弱させ、王位継承を辞退させる。そうして、自分の息子を次の王に据え、裏で実権を握る。それが彼の描いた筋書きだったのだろう。
単なる魔女の気まぐれなどではなかった。この呪いは、王位継承権を巡る、醜く、そして冷酷な陰謀の産物だったのだ。長年自分を苦しめてきたものの正体が、身内の醜い欲望であったと知り、レオニールの心に静かな怒りの炎が燃え上がった。
だが、新たな疑問が浮かぶ。
なぜ、叔父は今になって眠り病のような事件を起こしたのか?レオニールは既に王位継承からは距離を置き、離宮で静かに暮らしている。叔父の目的は、ある程度達成されていたはずだ。
レオニールは、シオンの存在に行き着いた。
シオンの「破邪の歌声」が、眠り病の邪気を浄化した。もし、叔父が魔女と今も繋がっているのなら、彼らが狙っているのは…。
「シオンの力か…!」
レオニールの背筋を、冷たい汗が伝った。
叔父の野望は、もはやレオニールを失脚させるだけに留まっていない。彼は、シオンの持つ「破邪の歌声」という強大な力の存在に気づき、それを手に入れようとしているのではないか。もし、あの聖なる力が軍事目的で利用されれば、この国は、いや、この大陸は計り知れない混乱に陥るだろう。
シオンの兄が恐れていた事態が、現実になろうとしていた。
だが、その懸念は、皮肉にも海の国ではなく、陸の国の、それも王族の内部から生じていたのだ。
すべてが繋がった。海からの追手、王家の陰謀、そして暗躍する魔女。そのすべてが、シオンという一点に収束していく。
「シオンは、私が守らなければならない」
もはや、それは個人的な愛情だけではない。この国の、そして世界の平和を守るためにも、シオンを悪意ある者たちの手から守り抜かなければならない。
レオニールは、隠密部隊の長を呼び寄せ、静かに、しかし断固たる口調で次の命令を下した。叔父の動向を徹底的に監視し、尻尾を掴むのだ、と。
静かな離宮での穏やかな日々は終わりを告げ、二人は巨大な陰謀の渦へと、否応なく巻き込まれていくのだった。
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