アダプター

ウシップ

プロローグ 幾千年

人類誕生よりもずっと前、それはもう気が遠くなるほど前の時代。

地球上に大量の隕石が降り注いだ。

あるものは死滅し、あるものはその後の環境変化により死滅し、そして、あるものは運良く生き延びた。

その中に隕石とともに舞い降りた生物がいた。

「それ」は一部のものにしか触れることも見ることも出来ない。

また「それ」も他者に触れることは出来ない。

「それ」が見えない者にはただ何かいると感じられるだけだ。

「それ」は幾年も触れることも触れられることも出来ない時間が過ぎていく。

ある日、奇跡が起きる。「それ」と意思疎通が出来る知能をもつ生物、「人類」の誕生だ。

しかし、人類は非力すぎた。

あらゆる獣から命を狙われ、食物連鎖の底辺に陥っていた。

生き物が枯渇した地球上では他の生き物にとって、人類は重要なタンパク源となるのは自然の摂理だった。

「それ」と適応した人間を見つけるまでに、人類はもはや数人しか存在していなかった。

この人類を絶滅から守るべく「それ」は生きる術を教えていく。

次第に地球上の食物連鎖から外れていき、人類は異質の存在となっていく。

やがて文明が誕生し、「それ」の力を具現化できる適応者が現れた。

優れた知見と未知の力に人類は畏怖と崇敬の意を込め、「それ」と適応者を「神」と呼びはじめる。

「それ」は数々の奇跡を起こした。

一度呼吸と脈を止めて死んだふりをして2日後に蘇ったり、泳ぐのがめんどくさくなり、海を真っ二つにして渡ったりしてみた。

さらに「それ」は人類に他の生物にはない知恵と慈愛を教え、他の者にも教えるようにと人類に宗教を誕生させた。

しかし、人間には寿命がある。

「それ」は他者の寿命を伸ばす力はなく、ただ受け入れるしか無かった。

だが、運が良いことに何世代に渡って適応者が現れ、「それ」は地球上のあらゆる場所に飛び立ち、宗教を誕生させた。

最後の適応者の寿命が尽きてから数千年、適応者は現れることはなかった。

その間、人類は教えを曲解し、自身に都合よく解釈し、争い続ける。そして、人が人を支配する時代が訪れた。

「それ」はひどく悲しんだがどうすることも出来ない。

文明が発達した現代。争いのない国が生まれた。

それは日本国。多くの犠牲をだした戦争が終わり、世界でも有数の平和な国となった。

内乱が続いている頃から「それ」はこの国をずっとフラフラしていた。

「八百万の神」という考えが好きだったからだ。

今はなぜか海が苦手になり、海水がない日本の中央あたりの日本人が作った『神社』というものを拠点としていた。

「それ」はいつもの通り、フラフラしようと外に出る。

その瞬間、身体中に電撃が走った。

数千年ぶりのあの感覚、「適応者」だ!

「それ」は久しぶりの高揚感を抑え、適応者と出会うべく、感覚を頼りに人間世界へとフラフラと降りたっていった。

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