最強の呪い「約束」持ちは、巻き込みも、巻き込まれもしたくない
高梨恋鳥
第一章 フィメイア学園編
第1話 クランは、ただの日常を過ごす
フィメイア学園で授業を受けながら、わたくしは窓の外をぼーっと見ていた。
窓は開いていて、そこからは涼しくなり始めた秋の風が入ってきていた。
授業なんてつまらないわ。
教科書を読んだら分かることを延々と説明されるだけのもの。
だから、テストさえ受けて、授業さえ参加していれば、ほかはどうでもいいものなのよね。
わたくしは公爵令嬢クラン・ヒマリア。
まあ、公爵令嬢らしくないでしょうけど。
だって、学園では人とは滅多に話さない。時々、取り入ろうと考えているのか、おかしな子たちがやってくるけど、無視するようにしているわ。
……もしかしたらその点は公爵令嬢の役割に即しているかもしれないわね。取り入ろうとする人に取り入れられないのが公爵なのだから。
しかし、そのせいでついたあだ名が「孤高の公爵令嬢」。
……事実ではあるけど……ひどい話よね。
あぁ、涙が出そうになったわ。
まったく、最近の人達は礼がなっていないんじゃないかしら?
わたくしの家は公爵だというのに。
ここは学園だし、お兄様達が見逃しているのなら多分大丈夫でしょうけど。
いつの間にか、授業は終わっていた。
今日もあてられずに済んだと一安心する。
さあ、家に帰りましょう!
今日は週末だから、寮ではなく家に、のんびりと帰ることができるのだ。
「お嬢様、お待ちしておりました」
校門の前で、執事のカナンが馬車を準備して待っていた。
「ありがとう、カナン」
いそいそと馬車に乗る。あとは小一時間揺られればヒマリア公爵家に到着。
家では周りの目を気にせずゆっくりできるから大好きなのよ。
「ただ今戻りました」
玄関にいて、わたくしの帰りを待っていてくれていたお父様、つまり現公爵のユシエル・ヒマリアに挨拶をする。
「おかえり、クラン」
優しいのでお父様は大好きだ。昔の「約束」も守ってくれている。
「今週も何も予定は入っていませんよね?」
「入れていないよ。いつも通り過ごしなさい」
ほら、お父様は優しい。
「……お母様は?」
「ミリネアは領地を見に行ってくれている」
ミリネア・ヒマリアというのがお母様の名前だ。
公爵の次の位、侯爵家から嫁入りしたの。貴族にしては珍しい恋愛結婚だったらしいわ。
「分かりました。ありがとうございます」
「クランは気にしなくていいよ」
退室する。お父様の仕事を長々と邪魔するわけにもいかないしね。
さあて、今週末は何をしようかしら?
魔法薬をまた作ってみる……本を読みまくる……動物たちと遊ぶ……護衛を連れて狩りに行く……
うーん……どれもしっくりこないわね。どうしようかしら?
多分、結構な間考えていたのでしょうね。
――コンコン
誰かしら? というかもう夕方? えぇぇ?? 早いわね。
「……どなた?」
「公爵様です」
メイドのサリアが教えてくれた。お父様が? なぜ?
「通してちょうだい」
「かしこまりました」
「失礼するよ」
「どうされました?」
「クラン、さっきは何も予定を入れていないと言ったが、訂正する。日曜日の夜、パーティーに参加しなさい」
「……なぜ?」
「エステルもユーリも用事が入ってしまい、同伴者がいないのだ」
ちなみに、エステルが長男、ユーリが次男だ。
「あぁ、お母様がいませんものね」
「分かっているじゃないか」
「お断りします」
「……なぜ?」
「そういう場には出たくありません」
だって、喋らなければならないじゃない。特に好きでもない人と。役に立つかもわからない会話を。
その点では今の時間も無駄ね。
「どうにかならないか?」
「申し訳ありません。できれば行きたいのですが、もうやることを決めてしまったので……」
「……そうか。無理を言って済まなかった」
そう言ってお父様は出ていった。
「お父様……嫌い」
「約束」を守ってくれるお父様は好きだったけど……
それがなくなったら。あまり好意的に受け入れられなくなってしまったわ。
わたくしって、こんな両極端だったのね。初めて知ったわ。
それにしても無理を言っているのはわたくしのほうなのだから、お父様が気にすることは無いというのに。
理由を言うわけにはいかないから、行くことになっていたかもしれない……けど行くことはできないから、早々に引いてくれて助かったわ。
それにしても、お父様は急にどうしたのかしら?
今まではああいう状況になってもわたくしの意思を尊重して、尋ねてくることはなかったのに。
これが一時的なものだといいけれど……
少しの不安が残った。
夕食を食べに行ったが、お父様はいなかった。きっと忙しいのね。
さっきはせっかく忙しい中来てくれたのに……
ついていくことを承諾すれば、お父様の心労も軽くなったりするかしら?
試そうとは……思わないわね。じゃあやらなくて正解だわ。あの一瞬で正解を選び取ったわたくしは優秀ね。
そう思い、気分が良くなるのだった。
食べながら考えた。今週末は何をするか。
そうね……狩り……が多分久しぶりよね? うん、先週は魔法薬で先々週は読書だったはずよ。
じゃあ狩りにしましょう。
あ!
狩りだったら、疲れているからという理由でお父様の誘いを避けた理由にも繋がるわ! 最高ね!
どんどん愉快になっていった。
さあ、明日も頑張りましょう!
多分、お父様からはもう誘われることはないだろうけど、その時でも断れるくらいには疲れるのが目標よ!
明るい気分は、その後、寝るまで続いたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます