#5 出逢い
パークレンジャー、監視小屋にて。
「えー!!! カコ博士が支援!?」
テーブル正面に座っていた、女性パークレンジャー、ナツが思わず椅子から飛び上がる。
「ああ、詳しい事は教えられないがな」
コンは皿の上に乗せられたソーセージをフォークで刺しながら言う。
「えぇ!? 勿体ぶってないで教えなさいよ! コン!」
そう言って駄々をこねる彼女に体格のいい男性パークレンジャーのエイジが食事の乗ったプレートを差し出しながら言う。
「ナツ、コンだって秘密にしたくて言ってるわけじゃないと思うぞ」
ナツはエイジの言葉に少しムッとしながらも、手元のプレートを見て肩をすくめながら再び席に着いた。
「……まあいいけどさ。でも、コンが博士と直接関わるなんて珍しいわよね。」
「確かにな」
エイジが頷きながら、自分のコーヒーを一口飲む。コンはフォークを置き、静かに言葉をつなぐ。
「俺自身、驚いてる。だが、カコ博士の計画が成功すれば、フレンズの負担も軽減され、人類のセルリアンへの明確な対策が取れるようになる。そう思えばやる価値はある……そうだろ?」
ナツは少し真面目な表情になり、腕を組んでコンをじっと見つめた。
「うーん、でもさ、コン。本当にそれだけなの?なんか引っかかるんだよね。博士があんたをわざわざ呼びつけて、しかも秘密裏に動いてるなんて」
コンは帽子を軽く持ち上げ、目を細めながらナツを見た。
「さすがに鋭いな……まあ、確かに裏には何かあるかもしれない。もっとも、今の俺には、それを詮索する余裕は無いがな」
ナツはその言葉に少し不満そうな顔をしたが、エイジが話を引き継いだ。
「まあ、何にせよ、俺はカコ博士を信じるさ。あの人なら大丈夫だろう」
「……そうだな。」
コンは短く答え、再びフォークを手に取る。
その時、小屋の無線機から微かに雑音が聞こえた。エイジが立ち上がり、無線の音量をあげてから、ボタンを押して応答する。
「こちらパークレンジャー第28監視小屋。呼び出しでしょうか?どうぞ」
『こちら管理センター。貴監視小屋付近で特異なセルリアンの目撃情報あり。パトロール班は直ちに確認をお願いします。』
「了解、確認次第報告する」
通信が終わると同時に、コン達は立ち上がって脱いでいたジャケットや帽子を被り始める。
「コン、昼間みたいにひとりで突っ走らないでね」
ナツが念を押すように言うと、コンは苦笑いを浮かべて答えた。
「分かってる。チームで動く時は俺もそれなりに協調するさ。」
「本当?」
ナツが疑いの目を向けると、エイジが軽く笑いながらコンの肩を叩きながら両者を諭すような口調で話す。
「まあまあ、ナツ。コンだって無茶ばかりするわけじゃないだろう。それに、特異なセルリアンなら彼の経験が役立つ。」
「そうだといいけど……」
ナツは少し不安そうに眉をひそめた。
コンは帽子を深く被り直し、腰裏のナイフを軽く叩いて確認した。
「とりあえず行こう。奴が逃げる前にな」
ナツとエイジもうなずき、彼らはすぐに監視小屋を出発した。周囲の静けさを切り裂くように、ジープのエンジン音が響く。
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パトロールエリアの近くに到着すると、周囲の異様な雰囲気に気付いた。風は止まり、草木のざわめきもなく、ただ静寂だけが広がっている。
「なんか嫌ーな感じ……」
ナツが車窓から外を覗き込みながら言う。
「同感だ。行こうか」
エイジが慎重に周囲を見渡しながらジープを停めた。
コンはジープから降りると、地面に目を向けた。そこにはぼんやりと光り輝くガラス片の様なものが転がっていた。
「……これは、妙だな」
コンがつぶやいたその時、遠くから低い唸り声のような音が聞こえた。3人はすぐに警戒態勢を取る。
「エイジ、ナツ。バックアップは頼む。俺が先に確認する。」
その言葉にナツが即座に反論する。
「また勝手に突っ走る気!? ここは連携しないと危険!」
「分かってる。だが、俺一人の方が気付かれにくい。まず様子を見るだけだ。」
コンの言葉に、ナツは不満そうな顔をしたが、エイジが彼女の肩を叩き、やがて渋々頷いた。
「はぁ……分かった。でも、絶対に無茶しないで」
「了解」
コンは腰裏のナイフを確認し、草むらの奥へと足を進めた。その先には、セルリアンと思われる影がぼんやりと揺れている。暗闇の中でそれが不気味に虹色の光を放ち、まるで周囲の空気すら歪めているようだった。
コンはその光景に目を細め、静かに息を整えた。
「……確かに普通のセルリアンじゃない」
近づくにつれて、セルリアンの姿が徐々に明らかになる。通常の個体とは異なり、その体はガラスの破片ようなもので構成されており、虹色にぼんやりと輝いている。
形は出来の悪い不気味な人形の様に細長い手脚に不均衡な体型。関節は不自然なほど鋭角的に折れ曲がり、その動きには滑らかさが欠けているが、一歩一歩が異様に重い。その足音が地面に響き渡るたびに、周囲の空気が揺れるような圧迫感を放っていた。
「見るからに……厄介そうだな」
コンは帽子を深く被り直し、腰裏のナイフに手をかけたその瞬間、ふいにセルリアンが動きを止め、顔のような部分をコンに向けた。その動きはまるで、コンの存在を認識したかのようだ。
風が止まり、周囲は死寂に包まれる。セルリアンの虹色の光が不気味に揺れ、その歪な体が微かに震えた。
「……気付かれたか?」
コンはナイフを逆手に構え、じりじりと後ろ足に重心を移す。セルリアンが動けば即座に対応できる態勢だ。
しかし、セルリアンは動かない。ただその"顔"に当たる部分をこちらに向けたまま、不自然に傾いだ体をさらに歪ませる。
「何を――」
突然、セルリアンの体から奇妙な音が響いた。それは金属が擦れるような高音と、ガラスが砕けるような不協和音が混ざり合った音だった。
「――――!」
刹那、そのセルリアンはコンのナイフを奪い取ると同時に彼を吹き飛ばしていた。
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