第12話 勉強会、そして……(1)
一難去ってまた一難。ということで、期末テストが近づいてきた今日この頃。
「で、でっかー……」
「ま、まさかここまでとは……」
閑静な住宅街を抜けて、坂道を登った先、小さな丘の上に、それはあった。
立派な門構えに、歴史を感じる佇まいの洋館。一方で、周囲に生えた木々や芝は、きちんと手入れされていることが、より厳かな雰囲気を醸し出していた。
「かるみん、本当にあってる?」
「送られてきた住所は間違いなくここだが……」
送られてきた住所を何度アプリで検索しても指すのはここであった。というかそもそも、この建物以外それらしいものは見当たらない。
年季の入った鉄製の門に近づく。とりあえず、着いたら九重寺に連絡を入れるんだった。
しばらくして、奥の方から大きな屋敷を背景に九重寺がとことこと歩いてきた。九重寺も女性にしては背の高い方ではあるが、そんな彼女が小さく見える。
「すいません、こんな暑いのに待たせてしまって」
「い、いやそれはいいんだが……」
「?」
「さつきっちってマジモンのお嬢様なんだね……」
「ああ、そういうことですか」
ベージュのシャツワンピースに身を包んだ彼女が、今日はいつもより一層優美に見える。
「ま、とりあえず行きましょうか」
「お、おう」
「は、はーい」
まずは、あの屋敷まで歩く。途中、使用人のような方に挨拶を受けた。……まあ、想定の範囲内だ。この規模のものを維持するのには人手は必須なんだろう。
重厚な扉を開けて、いよいよ内部に入る。はい、シャンデリア。当然のようにシャンデリア。夢か? 夢なのか?
こんな広い空間なのに冷房が行き届いているし、目に映るものすべてが煌びやかだ。あまりにも馴染みのない世界を目の当たりにしてフリーズする。
「大丈夫ですか? 軽見くん?」
「……ハッ! いかんいかん、意識が飛んでいた……」
「き、気持ちはわかるよ、かるみん。うちも、想像以上だったよ……」
ずかずかと、装飾品まみれの廊下を進んでいく彼女。一方、俺はというと、無防備に置かれてはいるものの、俺の稼いだバイト代を優に超えていそうな壺を壊さないかを恐れ、慎重に進む。
――正直に言おう。非常に居心地が悪い。生まれてこの方、貧乏人として生きてきた俺には彼女が育った環境は肌に合わないらしい。
長い長い廊下を抜けた先、ようやく目的地に着いたらしい。木製のドアを開けた先には、大きなベッドが置かれた部屋があった。
「はい、着きました」
「お、お邪魔しまーす……」
「しまーす……」
「やあ」
そこには、椅子に座り、紅茶を楽しんでいた湊馬がいた。俺とは違い、この空気に完全に馴染んでいた。
ひょっとして、こいつもか……? こいつも金持ちなのか? 悲しき身分差に泣けてくる。ってか……
「お前、なんか用事あるから遅れるって言ってなかったっけ?」
「ごめんごめん、挨拶が思ったより早く終わってさ」
「挨拶?」
「……とりあえず座ってください」
四人で勉強するには十分すぎる広さの机を囲み、座る。すると、ベターっと金森が机に突っ伏す。
「やりたくないよー」
「ほら、あなたがやりたいって言ったんでしょ?」
「そうだけどー……」
「頑張ろう、金森さん」
「頑張る!」
「現金な奴め……」
ちなみに成績はというと、俺はトップ10ぐらい。九重寺と湊馬が毎回1位、2位で、論外が金森って感じだ。
「軽見くんは、今回の範囲どうですか?」
「うーん、数学がマズいかな……」
「わからないところあったら聞いてくださいね」
「うん、ありがとう」
俺たちは文系ではあるものの全員国立大学志望なため、厄介なことに数学も勉強する必要がある。数学は苦手だ。暗記したら何とかなる、英語や歴史のほうがよっぽどマシに感じる。
そんなことを考えていると、対面の二人が物珍しいような目をしてこちらを見ていた。
「……なんだよ」
「いや、圭って九重寺さんと一緒にいるとそんな感じなんだなって」
「そんな感じって?」
「かるみんの言葉の棘がない……! まるで飼いならされた大型犬みたいだ……」
「誰が犬だ!?」
「軽見くんが大型犬……それはそれでありですね」
「何が!?」
その後もいじられ腹を立てたが、九重寺があとでお詫びに、おやつをくれるとのことだったので、水に流してやった。……犬じゃないよ?
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ここまでご覧いただきありがとうございます!
少し短いですが、区切りがいいのでここで止めておきます!
みなさんのコメント、レビュー大変モチベーションになるので、是非お願いします!
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