第41話 白髪の幼女は二振りの刃を振るう
ドラゴンの大きな口が開かれ、そこに魔力が溜まっていく……その最中だ。
鋭いものに、斬りつけられる感覚があった。それも、二太刀。
外側は鱗で固められているドラゴンにとって、しかし口の中は数少ない急所とも言える。もっとも、この短時間で目の前の白髪の人間に好き放題されているが。
「ゴッ、ォ……」
舌を斬りつけられ、激しい痛みを感じる。同時に、溜めていた魔力を急速に静めていく。
この状態で魔力を炎に変換して口から放てば、それは自分にもダメージとなって跳ね返ってくる。それは、どれほどの痛みだろう。
その考えが、ドラゴンに攻撃をためらわせた。
「……しっ!」
咄嗟に"二刀の短剣"を振り切った白髪の幼女エリーは、剣を持ち直す。
今しがた振るった斬撃が、ドラゴンの舌を刻んだ。
ぎゅっと握りしめる。右手に持つのはこれまで使っていた短剣、
落下しつつ、エリーはこの業物を仕上げてくれた鍛冶師……ドワーフのロンドリーナスとのやり取りをを思い出していた。
それは、初めてこの短剣をもらったときの話。
『ほれ、完成したぞ。……長い間鍛冶師をやってるが、これほどのものを完成させたのは初めてだ』
『わぁ、きれいな刃……さすが、素材がいいってことだね』
『それはそうなんだが、わしの腕も大したもんだぞ』
『あれ、二つあるの?』
『聞けよ。まあ自分の力をひけらかしたいわけじゃないから別にいいんだがよ。
……あぁ、お嬢ちゃんが持ってきてくれた魔物の牙。それを使ってお嬢ちゃんに合った武器、つまりこの短剣を作ったわけだが……それだと、余っちまってな』
『余る?』
『たとえば長剣とかなら、余すことなく使い切れたんだろうがな。あの牙から作れるにゃ、この短剣一つだと余りが出ちまう。そこで、余すところなく使い切るために、もう一振り作ったのさ』
『おぉ、まさに匠の技!』
『へへ、褒めんない。てぇことで、この二振りの剣がお嬢ちゃんの武器だ。二刀流ってのは相当の練習が必要だから、まあ地道にやってけや』
……彼の仕事は、予想以上だった。素材の味を生かす、という言い方を使うならば、それを百パーセントではなく百二十パーセントで使い切ってくれた。
カリアの牙を無駄なく、エリーの手に馴染む形で作り上げてくれた。
普段は、一刀のみをエリーは振るう。わざと見える位置に下げておくのだ。
だが、二刀目。これは相手から見えにくいところ……というか影の中にしまっておく。
相手から見て一刀流だったエリーが、いきなり二刀流になれば虚を突かれることだろう。
もっとも、ドラゴン相手に……いや獣相手に使ったところでそういった効果があるかはわからないが。
「どうだこのヤロー!」
真っ逆さまに落下していくエリーは、風の魔術で体勢を立て直し着地する。
舌を切られたドラゴンは技の一つを封じられ、困惑している。そうでなくても、奴にとっては初めてとなる衝撃ばかりだろう。
エリーにとって、これはいい経験になった。奴は目的のドラゴンとは別個体だった……しかし、ドラゴンとの戦闘は今後必ず役に立つはず。
ドラゴンの敵意がまだ生きているのか、それを確認しつつも視線を別の方向へと向ける。
『エリー』
そのタイミングで話しかけてくるのは、ラル。こちらへと歩み寄り、その表情は穏やかだ。
話し合いは、うまくいったのだろうか。
「あの子、どうなった?」
『一応、事情は理解してくれたようだ』
「ならよかった」
事情の理解。それを聞いて、エリーはほっと一息を吐く。
自分の言葉は届かなかった。だが、同じ魔物であるラルならば。その目論見は成功だったらしい。
獣人幼女は向こうで座り込み、何事か考えているようだった。
彼女は今の見た目は人間だが……親が魔物ならば、彼女にとって魔物は半分同族だ。その言葉を飲み込み、今なにを考えているのか。
「……」
エリーは彼女に、ゆっくりと近づいていく。
ラルが彼女に話したのは、大まかにだがエリーと魔物たち……カリアの関係。そして、彼らがどうして死んでしまったのか。誰が殺したのか。
彼らの死を前に、エリーがなにを思いここまで来たのか。それらだ。
ラルは二人の成り行きを守りつつ、すぐに動けるように構えている。
「ねぇ、あなた」
「……」
座り込んでいる獣人幼女に話しかける声……それに反応し、白髪の幼女をゆっくりと見上げる。
二人の視線は、交じりあった。
もう、獣人幼女からの殺意も敵意も感じない。よほど、魔物の言葉というものは伝わったらしい。
これでこちらの事情はわかってもらった。だが、エリーにはなにをおいてもまず、確認するべきことがある。
軽く息を吸い込み、一気に吐き出した。
「あなた……本当に、カリアの子供なの?」
「……」
……『カリア』とはエリーがつけた名前だ。魔物の名前は、人間には発音することはできない。
果たしてこの名前が伝わるのか、今更ながら疑問だったが……
獣人幼女は、小さくとだが確かにうなずいた。
その瞬間、エリーの胸の奥に、なんとも表現しがたい温かなものが広がっていく。
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