第26話 幼女は冒険者として駆け上がる



 それにしても、全財産をここで使い切ってしまう覚悟もしていたので、エリーとしては一安心でもある。


「おじさんがいい人でよかったよ。さっきのが全財産だったからさ」


「……お前さん、あんまそういうことおおっぴらに言うもんじゃないぞ。だいたい、そんな大金渡して今後どうするつもりだったんだ。今夜の宿すら危ういじゃねえか」


「あははは……」


 ごもっともである。覚悟を見せるのはいいが、それで今日の生活さえ危うくなっていてはどうしようもない。


 鍛冶師ロンドリーナス。彼については初対面以上のことはわからないが、受付のお姉さんがわざわざ紹介してくれたのだ、腕利きなのだろう。

 若干気難しい気はするが、それが職人気質な感じがしてエリー的には好印象だ。


 彼に魔物の素材を武器に加工してもらう。そのためにエリーの要望をできる限り伝え、ロンドリーナスはそれを組み込んだうえで最高の仕事をする。


 もっとも、要望といってもエリーにとっては使いやすい武器であることが最重要だ。そのため、短剣という意見は二人とも一致した。


「そんじゃ、早速取り掛かるとするか……と言いてえが、今抱えてる仕事もあるからな。それに、単純にこいつを武器に起こすのだけでもわりと時間を貰うぜ。問題ないな?」


「わかったよ。焦って雑な仕事されても困るし」


「かははっ、言いやがる」


 武器が完成するまでには、相応の時間がかかる。仕事の順番を守るのも好印象だ。

 いつになるかはわからないが、せいぜい完成までの間に冒険者としてのランクを上げ、お金を稼いでおくこととしよう。


 大切なカリアの形見……手にしてからずっと一緒だったそれを、ついに手放す。

 次に会う時は……エリー専用の武器になっている時だ。


「ばいばい、カリア」


 エリーは小さく……あの時言うことが出来なかったお別れを、今度こそ口にした。


 武器屋を出たエリーは、早速冒険者ギルドに向かう。

 まだ日は明るい。そのうちに、一つでも多くの依頼をこなすためだ。しかし、今日は受けられてもあと一つだろう。


 なんせ、今夜寝る場所が決まっていないのだ。

 この国に来るまで、野宿など当たり前だった。近くにもふもふの毛並みを持つ魔物が居ないのは難点だが、最悪屋根なしだって眠れる。が……せっかくこんな大きな国に来て、お金もあるんだ。


 どうせなら、ふかふかの布団で眠ってみたい。


「そういえばこの世界に来て、ちゃんとした布団で眠ったことないなあ」


 生まれて”魔物の巣窟”に落とされ、そこでずっと生活していた。

 たまに魔物たちが、エリーのために布団を見つけて持ってきてくれることもあったが……前世の生活を思えば、それはまさにぼろ切れだ。


 そもそもまともな服さえ、この国に来てから着たのだ。なにもかもが、この世界で初めてだ。


「安い宿でも、ちゃんとしてるところならいいんだけどね」


『なら、ギルドの女に聞いてみてはどうだ。先ほどの鍛冶師といい、なかなかいい仕事をする人間だったぞ』


「だね」


 冒険者ギルドの受付と言うのは、冒険者の相手をするだけでなく地理にも詳しいのだろう。

 元の世界で言うなら、ホテルのレセプションのようなものだろう。


 そんなことを考えながら、エリーは再び冒険者ギルドへ。やはり先ほどのお姉さんが受付に対応してくれた。

 無事に武器の加工依頼ができたことを伝えると、彼女は驚いていた。


「へぇ、あのロンドリーナスさんが。いえ、腕は確かなんですけど気難しいと有名なので、こんなに早く了解をいただけるとは」


 なぜそんな人物を紹介したんだ、と突っ込みたくなったが……


「でも本当に、彼の腕は確かなんです。それにここだけの話、あの人子供に弱いんですよ」


 声を潜めて教えてくれるお姉さんだが、とてもそうは見えなかった。

 子供に弱い……と聞けばデレデレするおじいちゃんの図が浮かぶが、彼にそんな様子は全くなかった。


 なにかの間違いではないかと思うが、なんにせよこれで依頼を受けてくれたのだから文句はない。


「それで、次の依頼を受けたいんだけど、なにかおすすめのものないですか」


「次ですね、少々お待ちください」


 エリーの言葉に、お姉さんはにっこりと笑って対応する。

 やはり、子供だからと侮らずに丁寧に対応してくれる姿には好感を持てるものだ。


 彼女はいくつかの書類を持ち、エリーに合った仕事を選んでくれる。


「こちらはいかがでしょうか、簡単にできると思いますよ」


「ふむふむ」


 紹介された依頼を見て、エリーは何度もうなずく。

 当然だが危険なものではなく、それも今のエリーなら短時間で終わらせられるものだ。これにしよう。


 その旨を伝え、依頼を受理しているお姉さんに、続けてエリーは問いかける。


「それで、悪いんですけど……私、今夜泊まる宿が決まってなくて。安くてもちゃんと眠れるところを探しておいてもらえると、ありがたいかなって」


「! 宿、ですか。エリーさんはこの国に来たばかりなんですもんね。わかりました、エリーさんが依頼をこなしている間に、いくつか調べておきますね」


「ありがとう」


 本当に、良い人だ。他の仕事もあるだろうに。

 受理された依頼書を確認し、エリーは立つ。ぺこりとお辞儀をして、彼女に背を向ける。


 その足で進み、冒険者として駆け上がる。そして、ドラゴンの情報を手に入れて……ドラゴンを殺す!

 それこそが、カリアたちの無念を晴らす方法……エリーの復讐を果たす、一番の近道だ。


 扉を開き、白髪を揺らす幼女は……新しい一歩を、踏み出した。



 ――――――



 第二章はここまでです。故郷を家族を奪われ、歩き出した復讐者。彼女は生まれてから三年にしてついに、異世界の人たちに触れあいます。冒険者になり、ここから駆け上がる……幼女の冒険はこれからだ!(もうちょっとだけ続くんじゃ)

 次回から、第三章 戦場の幼女はドラゴンと斬り結ぶが始まります。

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