第5話 幼女の異世界特典
……"魔物の巣窟"と呼ばれるこの場所で、小さな女の子が魔物と共存して生きている。
それもこれも、この黒い狼……カリアのおかげだ。彼がエリーを助け、そして魔物たちの統率者だったからこそ、エリーは今こうして生きている。
カリアはエリーにとって……そう、まるでお父さんみたいな
「ごくんっ。ふふっ……普通の人間が、魔物とこうして一緒に暮らしているなんて、誰も思わないだろうね」
『……我らの言葉を理解し、会話までできる時点で、お前を普通の人間と断ずるにはいささか疑問があるものだがな』
「少なくとも見た目は、普通の人間でしょー?」
ししし、とエリーは白い歯を見せ笑う。カリアもまた、微笑んだ。
基本的に、人間は魔物の言葉を理解できないのだ。まして会話なんてもってのほか。
だからエリーが普通じゃない……というのもわかる。魔物の言葉を理解し、それだけでなく会話が成立しているのだ。
不思議なことではあるが、その理由にもエリー自身心当たりがある。
「カリアのおかげで私はこうして、生きているわけだし」
『ふふっ、どうだかな。お前一人でも、なんとかしてしまいそうだったがな』
カリアが、くくっと笑う。狼だけあって怖い顔だが、笑うとかわいいのだ。
ちなみに『カリア』というのは、エリーが付けた名前だ。
魔物には基本的に名前はない……いや、正確には名前はあるが、人間には発音のできない名前なのだ。
魔物の言葉がわかるエリーも、それは同様だ。だから、それに近しい言葉を名前として呼ぶことにした。
名付けた、なんて言ってしまうと偉そうではあるが。しかし、名前もなかった女の子に『エリー』なんてかわいらしい名前をつけてくれた彼への、ささやかなお礼だった。
『おうエリー、今日もいい食いっぷりだな』
「えへへ、そうかなー」
もちろんだが、名前をつけた魔物はカリヤだけではない。今声をかけてくれたギャルン、トナカ、ラスティーン……他にもいろいろな魔物がいて、エリーを育ててくれた。
たとえば"元の世界"にも犬や猫や鳥がいるように。魔物にも、様々な種類がいるのだ。今だって、エリーの頭上を羽ばたいている子もいる。
ちなみにこの崖を登ろうとしたら、彼らに洗礼を受けることだろう。もちろんエリーは大丈夫だが。
『かははっ、人間の赤子がこのような場所に落とされ、よくもまあ生き延びたものよ』
「それは、カリヤたちが育ててくれたからだよ」
『我らがしたことと言えば、ただ見守っていただけよ』
「……」
木の実を食べながら、カリヤの言葉を聞く。そして、思い出す。エリーがこのような場所で、こうして魔物と暮らすことになった経緯を。
それは、三年前……生まれたばかりのエリーが"魔物の巣窟"に捨てられたあのときのことだった。
不思議なことに、当時のことはしっかりと覚えているのだ。
あの時は、谷底に落とされ……あわや地面に激突するかと思われた直前、エリーの身体が浮いたのだ。
その後カリアと共に、結局一晩中眠ってしまった。生まれたばかりで疲れていたのか、しかし不思議とお腹が空くことはなかった。
そして、目覚めたエリーは……
『ふぁあ、よく寝た……』
『む、起きたか。どうだ、身体の様子は…………え?』
『うん、すっかり元気だよ! 助けてくれてありがとう! …………え?』
……言葉を口にしていた。
生後二日目にして、言葉を喋った。これはなるほど、もしあの時捨てられなくてもさぞ不気味に思われることだろう。
それを聞いたカリアはひどく驚いた。赤子が言葉を話したこともそうだが、それ以上に魔物である自分の言葉を彼女が理解していたことに。
人間と魔物は、意思疎通が取れない。魔物の言葉は人間には届かず、その意味が伝わることはない。
だが、エリーにはカリアの言葉が伝わった。そして、会話を可能にしたのだ。これは、魔物の言葉が自動的にエリーに分かる言葉で変換されているらしい。
これをエリーは『異世界特典』だと名付けた。自身が異世界から転生してきたことを、エリーは打ち明けた。
『……なるほど、異世界か』
『信じてくれるの?』
『この世界には、そのような人間が存在すると聞いたことがある。そしてそれらは一様に、超常の力を持っていると』
これは話が早いと、エリーは思った。
『ということは、お前があの時助かったのも……魔術を使ったからかもしれんな』
『魔術?』
『あぁ。人の生態について詳しい訳では無いが……人は誰しも、体内に魔力回路と呼ばれるものを持っているらしい。己の体内の魔力を使い、それを超常の力として生み出す。それが魔法だ』
『魔法? 魔術じゃなく?』
『魔術とは、大気中に流れる魔力に干渉し、力とするもののことだ』
要するに、自分の魔力を使うのが魔法、大気中の魔力を使うのが魔術ということだ。
『……だが……お前には、魔力回路が見当たらん』
『え……って、見当たらんって、わかるの?』
『私は何度か人間を見たことがある。それらは皆一様に、体内に魔力を流す回路を感じた。しかし、お前にはそれがない』
『私が赤ちゃんだからじゃなくて?』
『年は関係ない』
それを聞いたエリーは、あの時のことを思い出していた。谷底に落とされた、あの時だ。
『じゃあ、私が落ちてきた時ふわってしたのは?』
『……魔術だろうな。魔力の気配は感じた。風属性の魔術を使い、身体を浮かせた。落下の勢いを殺し、無事着地したのだ。
まったく不思議な人間よ。人間には使えないはずの魔術を使えるとは。それも、恐らくは無意識にな』
『え、人間は魔術を使えないの?』
『大気に流れる魔力を感じ取る力に欠けているからな。魔法は使えるが魔術は使えぬ……お前はそっくり逆ということだ』
体内に魔力回路がない。だから魔法は使えない。でも、大気の魔力を感じ取ることはできるから魔術は使える。
エリーは無意識に大気の魔力に働きかけ、魔術を使ったのだ。
人とは違った体質……これが、異世界に転生した自分へ与えられた力なのだと。そう理解した。
――――――
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