第3話   互いの秘密。 川野龍

「杏!」

僕が先に行ったりしたから、杏は車に轢かれちゃったんだ。

僕が全部悪いんだ。ごめん、杏。

「はあ、はあっ」

とにかく急いでいた。杏が車で轢かれて、病院に運ばれた。

(杏は大丈夫なのか?)

「あった」

『平山杏様』と書かれた病室に1人の女の子が、ベットに寝ていた。

何本かチューブを鼻につけていて、苦しそうに呼吸をしている。

点滴の液体が病室に響く。

「杏?」

杏はびくともせず、ただ一定のリズムで呼吸をしているだけだった。

そこに、医者らしき男性が部屋に入ってきた。

「木下です。平山さんの担当医だよ。君は平山さんのお友達かな?」

木下さんという人は、優しくて安心できるような声をしていた。

「はい。なんで杏は起きないんですか?」

木下さんは、少し戸惑いながら口を開いた。

「平山さんは、あの衝撃を耐えられる体をしてなかったから。一応手術をする予定ではあるんだけど。」

「目は、覚めるんですか?」

なぜか、とても嫌な予感がした。

「平山さんね、元々余命宣告されてたんだって。」

「えっ?」

『余命宣告されてた』って、どういう事?

「どのくらいなんですか?寿命って…」

平山さんは、驚いた顔をして怪しげな笑顔を見せた。

「そんなに聞くって、平山さんのこと好きなの?」

「ソソソ、ソンナワケ…」

思わずカタコトになってしまった。ず、図星ってわけじゃないけど‥

「じゃあ、彼女にあまり時間が残ってないと言ったら?」

「残ってないって?」

「彼女にはもう、一ヶ月しか残っていないんだ。」

言葉が出なかった。なぜ、杏は自分に一ヶ月しか残っていないのに「友達になろう」って言った僕を断らなかったんだろう。

「じゃあ、僕は仕事に戻るから。もし、目が覚めたら教えてね。」

「はい…」

「じゃ、よろしくー」と病室を出ていった木下さん。

「あいつ、本当に医者か?」

話す人もいなくなり、病室が一気に静かになる。

その日は、杏は目を覚まさなかった。仕方がなかったので僕も家に帰ることにした。


次の日_

杏が入院している病院へ行って、今は杏の病室に向かっている。

病室の前まで来て、ドアノブに手を伸ばした時だった。

「誰?」

その声は、昨日話した木下さんの声ではなかった。

ドアを開けた先には、本を開いている杏の姿があった。

「杏!」

杏は驚いている様子をしたが、すぐに笑顔を取り戻した。

「龍くん来てくれたんだ。」

「大丈夫?骨折とか」

杏は包帯が巻かれてある両足を見て、両眉を下げた。

「えへへ。ちょっと油断しちゃって」

「杏、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

杏は少し困惑しながらも「いいよ」とベットの横に置いてある椅子を指差した。

「座って話そう?」

僕は、椅子に座って杏に聞いた。

「一ヶ月で死ぬって本当か?」

杏は「どうして知ってるの?」って最初は聞いてきたけど、何度も聞く僕に観念したのかやっと教えてくれた。

「本当だよ。後3週間くらいかな、私が生きれるのも。」

「どうして、もうすぐ死ぬのに友達になってくれたんだ?」

杏は呆れた様子でいった。

「デリカシーって言葉知ってる?龍くん。」

その後に杏は言葉を続けた。

「別に龍くんに嫌な思いをさせたかった訳じゃないよ。私、友達いなかったから。

死ぬ前に、友達が欲しかっただけ。」

僕が何も言えないでいると、「それにさ」と笑った。

「死ぬ前にやりたいことがあるから手伝って、龍くん。」

「手伝う…?」

杏はニパッと笑うと、少し声を細めて言った。

「病院抜け出して、隣町行くの」

ふふっ、と笑う杏が一瞬だけ悪魔に見えてしまった。

「出来んの?」

「流石に作戦は立ててあるよ」

(作戦って…)

「隣町って電車で片道一時間はかかるじゃん」

「そうなんだよねー」

ってその前に僕の秘密も、教えなきゃいけないよな‥

「この駅乗れば時間間に合うんじゃない?龍くん」

「あのさ、杏ちょっと言いたいことが‥」

「不登校なんでしょ?」

なんで分かるんだよ。まじでこの女、時々怖い時があるんだよな。

「合ってる、けど。なんで知ってんの?」

杏は、コテンとした顔でキッパリ言った。

「だって今日、平日だし。私のためにも学校なんて休まないかな、と」

「バレてた」

「ま、理由は聞かないけどさ!早く決めようよ」

その後作戦会議をして、僕が囮になりそのうちに杏は病院を抜け出す。という作戦で決定した。

僕も明日のために早く寝ることにする。おやすみ。

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