2話 見崎渚と美少女たち、噂に包まれる(3)

「で、今どうする?このままだと噂はどんどん悪化してるぞ」


 もう耐えられなかった。たぶん恒川も限界が近いと思い、放課後、人気のない場所に呼び出して相談することにした。


「ごめんね……あの時、こうなるなんて私たちも思わなくて」

「いや、お前らは心配してくれただけだし、責めるつもりは一切ない。問題は、このまま放っておくわけにもいかないってことだ」

「桜花と彩奈も呼んであるから、全員でどうするか考えよう」

「え?マジかよ?俺たちがこうしてコソコソ喋ってるだけでもリスク高いのに、あと二人まで来たら目撃された瞬間完全にアウトだろ!」

「この場所は誰も来ないから大丈夫だよ。あ、来た来た」


 恒川が視線を横に向ける。俺もそっちを見ると、中野と里浜がこっちに歩いてくるのが見えた。


「やっほーナギっち〜!」

「ハロ〜見崎くん〜!」


 中野は普通に手を振ってきたが、里浜は相変わらず当然のようにナギっち呼び。だから初対面レベルの距離感じゃないっての!


「ど、どうも……」


 ていうか、なんでこいつら笑顔なんだ?この状況の重大さ分かってないのか?


「さて、これからこの噂をどうやって収めるか話し合おうか」


 恒川が真面目な顔で切り出す。


「え〜でもさぁ、別に解決しなくてもよくない?」


 里浜がヘラッと笑いながら言う。コイツ、完全に他人事みたいな顔してやがる……いや当事者なんだけどな?


「あたしもそう思ってた」


 おい中野までかよ!?なんでお前らそんなメンタル強いんだよ!?


「いや、やっぱちゃんとなんとかした方がいいだろ。ずっと誤解されたままなのは嫌だし」


 そうそう、俺もだよ!嫌だ!


「あたしは『見崎くんが怪我してたから助けた』ってハッキリ言えばいいだけだと思ってるよ。だって実際そうだったんだし。ほら、その時見崎くんはあたしのハンカチで血拭いてたよね?それ見ればバカでも怪我人だって分かるでしょ?」


 いやいやいやいや……


 それが通用すると思ってるの?人間ってのはな、「真実」より「面白い噂」を信じたがる生き物なんだよ?


「当事者が否定してる → やっぱ本当なんじゃね?」ってなるパターン、学習してくれ?


 ……てか、今さらだけどさ、ちょっと変じゃない?


 そもそも俺とこいつらって、そんなに仲良かったっけ?


 なんで朝電車でちょっと出会っただけの俺を、あんな必死に医務室まで運ぼうとしたんだ?


 ……いや、別に疑ってるわけじゃない。助けられたことにはマジで感謝してる!ただ、気になるもんは気になるってだけだ。


「というかさ、今思い出したんだけど、一つ聞いていいか?」

「ん?なぁに?」


 と里浜が首を傾げる。


「俺がトイレでボコられてたこと、なんで知ってたんだ?」

「あ〜あれね、紅葉さんが教えてくれたんだよ〜」

「恒川?」

「うん。私、廊下で偶然あの朝の不良たち見かけたの。それでその直後、見崎くんが『間違いない!今朝のやつらだ』って叫びながら追いかけて行くのが見えてね」

「……」

「絶対に復讐しに行ったなこれって分かったから、また返り討ちに遭ったら大変だと思って、後ろから付いてったんだよ。そしたらトイレに入ってくのが見えたから」

「それで紅葉さんがあたしたちを呼びに来てくれたの。時間がなかったから、あたしダッシュで行ったんだけど、紅葉さんと桜花さんが追いつけなくて〜」

「なるほどな……」


 そう聞かされると一応筋は通る。


「今一番面倒なのは、真実を知ってるのが私たちだけってことだよね。必死で説明すりゃ『隠してる』って見られるし、桜花みたいに正直に言ったところで、信用してくれるかどうかは別だし」

「だったら、信じないやつはぶっ飛ばして信じさせるまでよ!」


 里浜が真顔でそう言い放った瞬間、全員の空気が一瞬固まった。


「ちょ……里浜さん、暴力反対だよ……?」


 俺は慌てて反対する。いや、本気で言ってるのかと心配したんだ。あいつの力なら、何人かの男子は数発で沈むだろうし、やり過ぎはダメだって。


「え〜これもダメあれもダメ。じゃあどうすりゃいいんだよ……マジで面倒くさい〜」


 言われなくても分かってるよ……だからこそ恒川に相談したんだろうが!


「じゃあ、無視でいいんじゃない?で、あたしたちは普段通りに接して、そのうち噂も落ち着くでしょ。どう?」


 中野がぽんと提案する。顔はのんきそのものだ。


 ちょっと待て!何言ってんだ?


 無視=黙認って意味にならないのか?それに「普段通りに接する」って、どういう関係性を演じればいいんだ?友達ってことにすんのか?同級生ってことにすんのか?


「あっ、それ、ありだと思う!」

「あたしも賛成」


 恒川も里浜もあっさり賛成の声を上げる。なんでこんなに合意が早いんだ。


「ちょ、ちょっと待って、俺ちょっと意味が分かんないんだけど……」

「え?ナギっち、人の話わかんないの?」

「なに言ってんだよその言い方……ひどくない?俺はただ、ちょっと意味が分からないだけだって」

「見崎くん、わからないのはどこ?」


 恒川が心配そうに問いかける。


「なんで無視することがいいことになるの?それって黙認ってことじゃない?それに、俺たちが交流するって、つまり噂を肯定することにならないのか?」

「それは誤解だよ。桜花が言ってるのは、無視っていうのは放置して悪化させないって意味。そして交流っていうのは、噂に合わせるために演じるってことじゃない。私たちが言いたいのは、『私たちはただの普通の友達』ってこと。噂の『特別な関係』じゃないって伝えるんだよ」


 ふむ!言いたいことは分かる。けど、腹の底から納得できるかって言われると……うーん!


「悪化させないために黙る」ってのと、「誤解を解くために行動する」ってのが、どうして両立するのか俺にはまだピンと来ない。


「とにかく、ひとまずそれで行こう!この方法でいけると思う!」


 中野が胸を張って、自信満々に言い切った。その顔つき、マジで確信してるとしか思えない。


 仕方ない……多数決は多数決だ。俺の負けだ。だが誤解するなよ?


 これは納得したから賛成してるわけじゃない。恒川と里浜が賛成したから、少数側として渋々合わせてるだけなんだからな。


「……わかった。それで行こう」

「君たち、そこで何してるんだ?」


 その声……あの女だ!間違いない!全身の毛が逆立つのを感じた!

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