05.スーパーヒロイン

 処刑寸前で逃亡したあたし「ラブカ・ディオール」は「第二王子アイリス」と偽装婚姻をして恩赦を得ることになった。

 契約内容は、【革命軍を滅ぼすこと】。


 こうして、大大大大大キライなアイリス王子との婚約生活が始まる――


 ◇ ◇ ◇

 

 「それでは、極悪令嬢、ラブカ・ディオールの処刑を行う!!!」


 ――はずなのに、元の世界に戻ったあたしはギロチンに首をセットされているところだった。


 「あ、あのクソ野郎……! あたしを騙したなあー!!!」


 鏡転移で元の時代に戻ってきたとき、あたしはてっきりそのまま釈放されるのかと思った。

 だけどあのクソ野郎アイリス王子はあたしを憲兵に突き出して、そのまま予定通りに処刑場へ連れていかれてしまった。


 民衆の罵倒を浴びながら処刑場へ引き連れられ、ギロチンの3つの穴に腕と首を固定される。

 魅了魔法があれば味方を作れるのに、アイリスの野郎に封じられて思う様に発動できない。

 他の魔法も足に付けられた魔封じの鎖のせいで使えないし、得意の喧嘩術もギロチンに体を封じられたらどうしようもない。


「ぶ、ぶぶち殺す……!! あのクソ野郎! アイリス!! アイリスー!!!」


 もうあたしに使えるのは口だけだった。

 ぎゃあぎゃあと喚くたびに民衆が興奮するのがわかるけど、アイリスの野郎を呪う口が止められない。

 

 あの野郎、あたしにソレイユちゃんをくれるって言ってたくせに!

 協力したら恩赦をくれるって言ったくせに!!


「被告人、ラブカ・ディオール!」


 処刑場に高らかに響く、法令官の声。

 真紅の罪状書を掲げてなんかいろいろ言っている。


「貴女は王太子を誑かし、国庫の財を横領し、敵国に機密を漏らし、貴族と民衆の対立を煽り、さらに魔術をもって人心を惑わし、王国を破滅に導かんとした」

「罪状盛りすぎじゃない!?」  

「その罪、数え上げるに限りなし。よって、断頭台にて民の怒りを鎮め、国家の正義を示すものとする!」


 あたしの抗議も空しく、銀のレバーに手をかけた処刑人が冷たく言い放つ。


「執行」


――ガチャン


 鋼の刃が振ってくる。

 民衆の歓声が止まる、あたしの首が飛ぶのを待っている。


――キィイイイン!!! 


 でも、あたしは死ななかった。

 光の刃がギロチンを破壊し、捕らわれていた体が宙に浮く。

 いや、浮いているんじゃない――抱きかかえられている。


「ソレイユ……ちゃん……?」

「今は、ソルと呼んでくれ」


 あたしの体はソレイユちゃんソルくんの腕の中にいた。

 

「あなたはこのような死に方をすべきじゃない」


 ソレイユちゃんは優しく微笑んで、暖かい胸にあたしを抱きとめてくれる。

 かっこいい男装をしてるけど、密着すると甘いお花の匂いが鼻をくすぐる。

 

(しゅ、しゅき……しゅきしゅぎる……)


 好きすぎて腰が抜けちゃう……

 いつまでも立てないでいるあたしに苦笑しながら、ソレイユちゃんはあたしを抱きとめたまま民衆に宣言する。


「この者は罪に対して過大なる罰を与えられている! それはあなたがたの望む正義には程遠い!」

 

 それまであたしには「死ね」だの「あばずれ」だの好き放題言っていた民衆が、光り輝く騎士に対しては何も言い返せない。

 あの子を敵に回せば自分が悪者になってしまう、そんなことを感じさせるような圧倒的なカリスマ……これがヒロインパワー。


「彼女の処罰は王都追放が妥当である! このうら若き乙女の細い首を手折ることが、王国の秩序であろうか!?」


「そ、そうだ……ギロチンはやりすぎだ……」

「まだ18でしょう……追い払うくらいでいいはずだわ」

「そういえば、もともと平民なんだよな……俺たちの仲間のはずだ……」


 ちなみにアイリスの野郎曰く、ラブカが行った【王太子との不倫】はギロチン刑で妥当な処罰らしい。

 

 だけど、ソレイユちゃんの一言で民衆の意見は簡単にひっくり返った。

「許してやれ!」「正しい裁きを行え!」「これでは我々は納得しない!」なんて、あたしの死を待ち望んでた愚民とは思えないくらい優しい人々に変わってしまっている。


 「殺せ」から「許せ」に変わった民衆の怒号に、処刑人たちもどうしたものかとうろたえている。

   

「では、その者の処遇は俺に任せてもらおう」


 そこに現れたのは、あたしをこんな状況に追い込んだ大大大大大嫌いなアイリス第二王子だった。

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