フィリア戦記~『剣聖』を目指す少女が男ばかりの騎士団で正騎士になるまで~
水守風火・カクコン11参戦中
序章 始まりの時
一話 始まりの時~芽吹き始めた願い。そして、誓い~
「やめなさい! フィリア!」
広い屋敷の中庭で、庭木に
フィリアはオレンジがかった茶色で少しクセのある長髪が乱れているのに気づき、片手で髪を整える。
「女の子が木刀なんて持っちゃダメよ!」
フィリアに駆け寄り、子供用の木刀を取り上げたのは、三十代半ばにはとても思えない若さと美貌を保っている母、セーラ・マースティンだ。
オレンジ色のワンピースに白いフリルが付いたエプロン姿の母は、焦りの表情を浮かべていた。
「どうしてなの? お母様。どうしてフィリアは木刀を持っちゃダメなの?」
フィリアは母を見上げながら、不満そうに問いかける。
「木刀はね。女の子が持つものじゃあないのよ」
たしなめるようにフィリアに語りかけるセーラは、優しい口調で答えた。
「どうして木刀は女の子が持つものじゃないの?」
だが、フィリアは納得出来ていない。
母は取り上げた木刀を両手で後ろに隠し、しゃがみ込んでフィリアの碧眼の瞳と視線を合わせた。
「木刀を持って振り回したりする女の子は、活発過ぎて男の人にも女の人にも嫌われるの」
フィリアは母の言葉を真面目に聞いている。
「嫌われるだけじゃなくて、変わり者で頭がおかしいと思われて笑われたりするのよ。分かるわよね?」
母の言うことはこの国――ケアフィールド王国――に
それはフィリアにも理解出来た。
フィリアはまだ何か言いたげにしていたが、幼さ故にか返す言葉がすぐには出てこず、黙って、コクリと頷いた。
理解はしても、納得など出来ない。
父のアダムからも注意されてはいるのだが、どうしても納得が出来ないでいる。
「良い子ね。フィリア。さあ、お部屋に戻ってご本の続きを読みなさい? もう少ししたら美味しいお菓子が出来上がるわ。お紅茶も
そうして、フィリアは母が持つ木刀を名残惜しげに見つめながら、中庭をあとすることになった。
◇◆◇◆◇
それでも、フィリア諦めるつもりはない。
夜になると、こっそり屋敷を抜け出し、自室に置いてある子供用の
昼間ダメなら夜でも稽古は出来る。
ここは王都内ではあるものの、王都中心部からは離れた場所なのだ。
月の明かりがフィリアを助けてくれる。
「――フッ!」
フィリアが箒を木に打ち込むと、ガツッ! と幹が傷つく音が聞こえた。
確かな手応えを感じたフィリアは嬉しくなる。
フィリアの
殆どの男爵
マースティン家が男爵の爵位を
しかも、先代国王の時代に起こった隣国ハンサウスとの戦いで大きな功績まで遺している。
マースティン家は優秀な剣士を輩出することを条件に、世襲が許されているのだ。
男爵だからという訳でもないが、爵位を継げるの当然男だけ。
フィリアは成長したらどこかの貴族か豪族か、母親の実家に
この国――ケアフィールド王国では男尊女卑の考えが他国より根強い。
家長になれるのは男だけ。危険な仕事は男の仕事。既婚女性は基本的に働きに出たりはしない。
――女が剣術を極めたとてなんになるのか――
そんな考えが一般的な国なのだ。
――それでも。とフィリアは考える。
ケアフィールド王国には女魔術師という存在が居る。
魔術師は危険な仕事の一種でもあるが、性別は関係ない。
体力も魔力も精神力も、全てがバランス良く、しかも普通の人間以上に強くなくてはならない。
他国では女騎士の存在は当たり前なのに。
なのに何故、この国では女が剣を持ってはダメなのだろう。とフィリアは常日頃から思っている。
ともあれ、フィリアはこっそりと木刀代わりの箒を振るう。
今は隠居しているけれど、『剣聖』と呼ばれる祖父のように、優しく強く弱きものを守れる剣士になるのだと。
幼心に、そう誓いながら。
フィリアは秘密の稽古を続けて行く。母から
寝不足でも疲れていても、兄と弟から、父にどんな剣の稽古をさせられているのかを聞き出し、フィリアもそれを独自に実践して行く。
◇◆◇◆◇
――が、それから約三年後。フィリアが十二歳のとある時に、秘密の稽古をしていたことが両親にバレてしまう。
フィリアの父は古い考えの持ち主だった。
ノックもなしに、フィリアの自室へずかずかと入って来た父は、開口一番「女の分際で剣術を極めたいのなら、まずはハリソンに勝ってみろ」と言い出したのだ。
その結果、フィリアはいきなり兄のハリソンと対戦をすることになってしまったのだ。
この様子では、父がフィリアを許すことなどないだろう。
もちろんフィリアもそれは分かっているし、謝罪するつもりも、ましてや反省する必要もないと考えている。
まき込まれた形の兄には申し訳ないと思いながらも、きっと
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