第38話 提案
王城を後にした後、俺達は長年使われていない屋敷に向かう。
その場所は都市の中央からは離れているので、セレナ様のご厚意で馬車に乗っていくが……無駄足だったかもしれない。
何故なら、その建物はボロボロになっていたからだ。
「良く良く考えたら当然か」
「これは……由緒あるアスカロン家の屋敷なのに。何故、整備しないのでしょう?」
「いや、無駄に整備されてない方が良い。それはそれで、血税を使うということだ。おそらく、父上も断っているだろう」
父上の学生時代は寮生活で、これを建てたのは曽祖父の時代だとか。
手入れをするお金も勿体無いということで放置していたに違いない。
かといって王家のお金を使ったら、それは元を辿れば民の税金ということ。
そんなことはアスカロン家が認めはしないだろう。
「なるほど、流石はアスカロン家ですね。ですが、これだと泊まるのは……」
「まずは中を確認してみるとしよう」
草木生い茂る庭を抜け、扉を開ける。
すると埃が舞う。
「けほっ、けほっ、セレナはこない方が良い」
「いいえ、平気です。それに、これは私の出番ですね……清涼なる水よ、汚れを祓いたまえ」
セレナ様の体が光を放ち……収まる頃には埃は消え去っていた。
これは癒しの力を応用した水魔法か。
「すごいな」
「ふふ、役に立てて良かったです。良く孤児院やスラム街でも似たようなことしてたので」
「なるほど、そういうことか」
そうだ、彼女は国を良くするために身を粉にしていたのだ。
公爵家の姫と呼ばれ、王妃として育てられたというのに。
だというのに奴らときたら……おっといかんいかん。
「でも細かいところは無理ですけど……思ったより綺麗です?」
「どうやら中は意外としっかりしてそうだ」
「これなら手入れしたら使えそうです」
「では、そうするとしよう。まだ学校が始まるまで一週間はあるしな」
俺は四月から二年生として編入という形だ。
まさか、また学校に通うことになるとはな。
「でも……それまでは何処に泊まるのです?」
「元々期待はしてなかったから、適当に宿を取ることにする」
「それでしたら……あ、あの、とりあえずうちに来ませんか?」
「……なに?」
「そ、その! お母様が挨拶したいって!」
「あぁ、そういうことか。確かに一度ご挨拶に行った方が良いだろう」
「あれ? ……お家に男の人連れてくの初めて……」
娘を持つ母親として、近くにいる男が気になるのは当然だ。
彼女を守る騎士として、今後のために良い印象を与えておかねばなるまい。
ただ……なんでセレナ様はオロオロしているのだろうか。
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