第36話 威圧
王都への道中は平和そのものだった。
誰かに襲われることもなく事件もない。
ただ……誰かに見られてる気配は何度かあった。
「……仕掛けてくる様子はないと」
「アイク? どうしましたか?」
「いや、何でもない」
隣に座るセレナ様が首を傾げるが、その内容を伝えることはしない。
何かあるのならば、それを事前に摘んで仕舞えば良い話だ。
彼女には出来るだけ、平穏な日々を送ってもらわねば。
「そうですか? ……王都に行くことで、アイクも緊張してるかと思いましたのに」
「なに? 俺が緊張する要素が何処にある?」
むしろ、今の方が緊張している。
何せ、推しである彼女が真横にいるのだ。
俺は出来るだけくっつかないように必死である。
「えっ? ……だって、王都であんな立ち回りをしたのですよ? 私の所為で牢屋にも入れられましたし、国王陛下とも話をしたとか」
「あぁ、そんなことか。別に気にしていない。俺は俺の心のままに従ったのみ」
「そ、そうですか……アイクは強いです……私は少し怖い」
「何も心配することはない。彼奴らは所詮、人を貶めることでしか自分を保つことが出来ん奴らだ」
前世でもあったが、いじめとは大体そういうものだ。
ただ気にくわないとか言いつつ、それは自己の有利を確立したいだけの話が多い。
そういう奴らは自分より下を作りたいだけだ。
「……ふふ、確かにそうですね」
「ああ、だから気にすることはない。それに、学園には俺がいる」
「あんまり頼りたくはないのですが……でも心強いです」
そう言い、少し困った表情を浮かべた。
やはり、内緒にしておいて正解だったか。
そして何事もなく旅は続き、無事に王都に到着する。
そのまま馬車にて大通りを進んでいく。
ちなみにオルトスは王都の外にて放してある。
「懐かしいですね……」
「まだ二ヶ月くらいではないか?」
「色々とありましたから。では予定通りに行きましょう」
「ああ、まずはユアン陛下に挨拶だな」
俺達が通うセイント学園の理事長は当代陛下がなると慣例化されている。
実際に運営するのは副理事と校長だが、初代国王が作った学校という理由からだとか。
それに加えて特殊な事情もあり、俺達はまずは陛下に会いに行く。
王城に入ると、俺達に視線が集まる。
「おい、あれって……」
「元婚約者の……」
「隣にいるのは誰だ?」
「まさか、アスカロン家の……」
午前中は仕事の時間だというのに野次馬がいるな。
全く、暇人な奴らだ……仕事は山ほどあるのにサボっているのは知ってるが。
そんな暇があれば、民の為に少しは働け。
「っ……」
「セレナ、大丈夫だ。貴女は何も悪いことはしていない。そういう時は胸を張って堂々としてて良い」
「アイク……ありがとうございます」
セレナ様が前を見て歩き出し、俺は敢えて少し後ろを歩く。
そしてセレナ様をジロジロ見るもの達に圧を放つ。
すると、慌てて目をそらす。
「あれ? ……アイク?」
「どうかしたか?」
「何かしましたか?」
「いや、特に何も」
俺はしれっと嘘をつくがバレバレらしい。
セレナ様が少し頬をふっくらさせていた……めちゃくちゃ可愛いのだが?
「もう、威嚇しちゃダメですよっ」
「だから俺は何もしてない」
「……アイクってば嘘が下手です」
両手を後ろで組んで振りむき微笑む姿は破壊力抜群で、崩れ落ちなかった自分を褒めてあげたい。
全身全霊をかけて、どうにか持ちこたえ……顔を背ける。
そんな俺を彼女が不思議そうに覗き込んでくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます