第24話 自分の運命
……背中から汗が吹き出る。
手足がガクガクと震え、思わず膝をついてしまう。
それもそのはずで、俺の胸からは大量の血が流れていた。
「あ、危なかった……あと一歩遅ければ、ああなっていたのは俺の方か」
あの刹那、俺の方が一瞬だけ踏み込みが早かった。
それ故に相手の斧を叩き折りつつ、相手の胴体を斬り裂いた。
しかし相手は折れた斧のまま、さらに踏み込んで俺の胴体を切ったというわけだ。
「勝てたのは……前世の記憶のおかげか」
状況を俯瞰的に見れたし、何より剣道をやっていたのが大きい。
この体のスペックも高いが、まだまだ若いゆえに練度は高くない。
もしかしたら、以前のアイクだったら負けてたかも……そうなのか?
「アイクはもしかしたら、ここで死んでいた運命にある? だからストーリー上にほとんど現れない? 本来はモブのようなものだったりするのか?」
「アイク! あぁ、なんて酷い怪我……」
振り返ると、セレナ様が顔を真っ青にしていた。
どうやら、俺の姿は相当酷いらしい。
そんなことより考えるのは後にして、すぐに行動をしなくては。
膝に手を添え、無理矢理に体を起こす。
「これくらいなんてことはない」
「動いちゃダメです! 全身血だらけではありませんか!」
「そういうわけにはいかない。恐らく、今頃領地が襲われている」
あの後から後続が続いてないということは、ほとんどの敵兵は先に進んでいるということ。
そこまで数が多いとは思えないが、甘く見るわけにはいかない。
国境に戦力を割いてる今、都市の守備は手薄だ。
何より、無辜の民を守るのがアスカロン家の使命だ。
「それは……では、せめて回復を」
「そんな暇はない」
「では、私を後ろに乗せてください。向かう間に少しでも治療しますから」
「しかし血だらけの俺に……いや、すまない……お願いしても良いだろうか?」
「もちろんですっ」
「ブルルッ!」
振り返ると、オルトスが姿勢を低くして待っていた。
それは誇り高き黒王馬としてはあり得ないこと。
俺が乗りやすいようにしてくれたのか。
「オルトス、感謝する」
「ブルッ」
良いから早く乗れとでも言うように鼻を鳴らす。
俺は兵士達に支えられながらどうにかオルトスに乗る。
その後ろからセレナ様が抱きつき……オルトスが立ち上がった。
座った状態から二人を乗せて立てるのはこいつくらいだろうな。
「怪我が癒えきってない者達は、ここに残って死体処理と見張り台に報告に向かえ。すぐに動ける者達は俺についてこい」
「「「はっ!」」」
回復魔法とはいえ万能ではない。
傷そのものは癒しても、体力までは回復しないし四肢欠陥などは無理だ。
それらの兵士達にこの場を任せ、俺はオルトスを走らせるのだった。
それから走ること三十分くらいか。
傷口はどうにか塞がったが、意識が朦朧としてくる。
「アイク、平気ですか?」
「ああ、助かった」
「いえ、私にもっと力があれば……」
確かに胸の傷は深く、塞がっただけで完全に癒えてはいない。
しかし、それだけでも十分だった。
これで、どうにか剣は振れる。
「いや、十分だ」
「でも……汗が凄いです」
「ふっ、美人を後ろに乗せて緊張してるんだろう」
「……ふぇ!? こ、こんな時に冗談言わないでくださいっ!」
「ははっ、すまんすまん……」
いかんいかん、これ以上推しに心配をかけるわけにはいかない。
歯を食いしばり、這い上がってきた血を飲み込む。
……身体よ、あと少しだけ保ってくれ。
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