相合傘最高って思って

「雨……。」


 傘を忘れた。いつもなら持ってきてるはずだったのに、なぜか今日だけは寝坊したせいで天気予報みるひまがなくて雨がやむのをひたすら待つしかない。

 どうしようかな。ひま…だよな。黒崎ももう帰っちゃったし、親はまだ仕事中だし……どうしようかな。


「しょうがない、止むまで待ってよっと」


 私は教室から窓の外の雨が降っている景色を眺めながら、つぶやいた。朝に寝坊したのはちょっとした理由がある。

 昨日、黒崎と夜遅くまで通話をしてて、黒崎の寝息が通話越しに聞こえてきて、こんな機会滅多にないと思ってたら夜中の二時だったんだ。自業自得だけど仕方ないじゃん。いつもかっこいいイケメンアピールしてる黒崎の寝息が可愛かったんだから!


 そのせいで眠くて授業中に寝ちゃったし傘も忘れるしでちょっと最悪な気分だけど。幸運が続いたら不幸もやってくるものだよね。しょうがない。


 黒崎今何してるかなー。とか、誰といるのかなー。とかいっぱい気になることがあるし不安になるけど絶対にこれ重いよね。自覚あるから余計聞きずらい。


 スマホの画面を付ける。無意識にラインを開いて黒崎とのメッセージ履歴を見る。最後のやりとりは朝に送った「おはよう」で止まってる。

 私は、メッセージの履歴をさかのぼっていく、一番古いのは「これからよろしくお願いします」という付き合い始めてライン交換したときに送ったものだった。

 その関係がよくわからなくて、黒崎に対する私の態度がすこしぎこちなかったような気もするけど、黒崎がめちゃくちゃ口説いてくるし、デートにも誘ってくれたから今の黒崎に対する気持ちは間違いなく本物だと確信している。


 ライン、来ないかな……なんてことを考えながら、スマホの画面をただ意味もなく凝視する。

 ずっと、何の変化もしないスマホの白い画面を見て時間だけが経過していく。ぼけーっとなにも考えず、何もせず耳に入ってくる雨の音だけを聞きながら、その雨が止むのをひたすら待つだけ。

 どうせ暇だからと片耳にイヤホンをして適当な音楽を流す。右手で頬杖をついて、窓に当たって下に流れ落ちていいく雨のしずくを一つ、一つと何回も目で追う。

 流していた曲が終わって、次の曲にしようかなって机に置いていたスマホの方を向くと目の前に腕に顎を乗せてこっちを見てる黒崎がいた。


「やっとこっち向いた。」

「……なんでいるの」

「いちゃだめなの?ひどい、泣きそう。うぅ…、しくしく;;」

「帰って無かったの?」

「帰ろうとはしてた。見覚えのある後ろ姿があったから追いかけたの。」

「ずっと見てたの?」

「うん。」


 話しかけてくれればよかったのに。どれくらいの時間私のことみてたんだろう?傘を持ってきてないことに気づいた時間から結構経ってるとおもうんだけど…。


「帰る?」

「傘あるの?」

「あるよー?折りたたみ傘だけど」


 そういってカバンの中から小さい折りたたみ傘をだしてくる。でもこの大きさじゃあ傘をさしてもどっちかがびしょ濡れだよ。


「帰ろっか。」

「うん!」


 昇降口で傘をさして、小さい傘に二人で入る。黒崎の左肩が雨で濡れているのに気づいて黒崎にもっと近づく。


「んふふ。」

「なに?」

「相合傘最高って思って」

「濡れるだけじゃんか」

「でも、それ以上に赤城さんに近づけるから」

「……バカな事いわないの。風邪ひくよ。」

「あったかい。」

「はいはい。」

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