推しを銭湯アイドルにしたら爆売れしちゃいました
@1710010129j
第1話
「Ryanってなんかダサいよね」
「ほんとに」
「だから売れないんだよ」
大手芸能事務所Moonエンターテイメント所属のアイドルRyan。
15歳から20歳の6人組男性アイドルグループ。
デビュー3年目のまだまだ新人グループだ。
今から3年前事務所のビックプロジェクトとして有名プロデューサーであるRによってメンバーが選出された。
選ばれたのは、
実力重視というよりかは、将来を見込み、ビジュアル重視の若手メンバーだった。
天才クリエイターであるRがプロデュースするグループ。
すぐに売れるだろう。
そう思われていた。
だが…
翌年同じ事務所からデビューしたJeans。
Ryanが選ばれたオーディションに落ちた20代前半のメンバーたちで構成された超実力派グループ。
彼らは、瞬く間に時の人となり、韓国をはじめとする世界中でも人気を博すようになった。
「正直言ってJeansとはものすごい差がついちゃったよね」
「だよね」
「ねぇ!なんでみんなそんなこと言うの!RyanにはRyanにしかない魅力があるじゃん」
「まなみ、それは贔屓目が入ってるよ」
私のヲタク友達は、皆Jeansの方が売れている、Ryanは、落ちぶれた、そう言う。
3年目で落ちぶれだと?
この世界舐めんなよ。
5年目で花が咲き、紅白に出場するアーティストだっている。
10年目で追加メンバーを入れ、東京ドームまでたどり着くアイドルだっている。
そう。
私の推したちは、まだ終わっていない。
ピッ
ヲタク友達と別れ、いつものように電車の改札を通る。
「ハァ」
ヲタク友達と話すのは、楽しいが、推しの人気のなさを実感して辛くなる。
「まもなく電車が到着します」
キー
「ほんとに懐かしかったわ」
「マッチがまた歌ってくれるなんて」
「ほんとよね」
電車に乗り込むと、目の前に座っていた70代女性3人組。
その女性たちの手には、神楽坂哲夫のグッズ。
へぇ、まだテッチって歌ってるんだ。
純粋にそう思った。
私がなぜテッチを知っているかと言うと、もちろん母が幼い頃に好きだったアイドルだということもあるが、
人気のない推したちが最近何故か90年代ソングを90年代に流行ったちょいダサ服装で歌っているからである。
恐らく人気が出ないことに焦った運営が血迷ったのだと思う。
だから友人たちにもダサいと言われるのだ。
だが、私は、愛は盲目タイプのヲタクではない。
なぜ運営が推しにトンチキソングばかり歌わせるのか。
この路線で売り出しているのか。
私にはなんとなく分かる。
私たちの推しは、15歳から20歳。
だが生歌は、お世辞にも上手いとは言えない。
だがビジュアルは完璧。
あとダンスが上手い訳ではないが、全力パフォーマンスをさせたら右に出るものはいない。
そう。
完璧ビジュアルの思春期真っ只中90年代のちょいダサソングを全力でパフォーマンスしている。
それが絶妙に面白いのだ。
世間には全くといっても良い程、刺さっていないが、少なくとも私には刺さっている。
「でもね、今回でテッチも引退だって。」
「そうよね、もう年だものね」
「まぁ私たちも年だもの」
ハハハハハハ
愉快なおばさまたちだ。
「でも私たちは推しを見る元気はまだあるわよ」
「ほんとよね」
「私たちそれしか楽しみがないというのに」
「ほんとに」
「でも最近の曲ってなんかよくわからない曲が多いじゃない?」
「そうよね、テッチみたいな曲を歌っている若者はいないのかしら」
『います!!!』
「え?」
『え?』
私は、思わず電車内で大きな声を出してしまった。
『わ、わたし今なんか言いましたか?」
私は、冷や汗をかく。
「テッチみたいな曲を歌う若者いるの?」
目の前に座っていた白髪のおばあちゃんが私にそう尋ねる。
私は、しぶしぶ
「Ryanっていうんですけど、私の推しなんですけど、さっきまでその子達の特典会言ってきたんですけど、最近は、テッチさんのような90年代アイドルの曲を歌ってまして、あ、でも15歳から20歳で、あ、」
私は、慌てて自分のカバンからスマホを取り出し、YouTubeで動画を検索した。
「あ!これです!」
私は、最近私の推しが出した僕たち永遠のセブンティーンというクソダサソングをおばさまたちに見せた。
ダサいって言われたらどうしよう。
また友達みたいに貶されたらどうしよう。
私は、不安でいっぱいだった。
ふふふ ふふふふ ふふふふ。
1人のおばさまが笑い出す。
え?どうしたのかな?そんなに変だった?
私は、再び不安に襲われる。
「わたし、この曲だいすきよ。この子たちなんていう子たちなの?」
「かわいいわね」
「孫みたいだわ」
おばさまたちが次々と私に質問をする。
「Ryanって言うんです。この曲も聞いてください。」
この後私は、おばさまたちと最寄駅まで布教し続け、今度一緒にイベントに行く約束をした。
この日私は、久しぶりにウキウキで家まで帰ることができた。
このおばさまたちとの出会いが彼らをあんなにも変えてしまうなんて、この時の私は、まだ知らない。
推しを銭湯アイドルにしたら爆売れしちゃいました @1710010129j
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