共に魔王と戦った女賢者が俺に片想いしてたと知ったのは、元の世界に還った後だった
タマリリス
第1話 え!あの子俺のこと好きだったの!?全然知らんかった
俺はかつてトラックに撥ねられて死亡し、異世界転移した。
そこで俺が手にしたユニークスキルは「剣聖」。剣の腕前がぶっちぎりに強くなるスキルだった。
俺は王に命じられ、魔王を討つべく旅をすることになった。
仲間を探していたところ、王都でとある美少女と出会った。
彼女の名は「シャンカ」。見習い魔法使いだった。
シャンカは俺と出会ったことでユニークスキル「賢者」に覚醒。それがきっかけで共に旅をすることになった。
女の子と二人旅。俺は当時恥ずかしがり屋だったので、ずっとシャンカとは敬語で話していた。
近い歳の女性との話し方が分からなかったので、あまり雑談や日常会話はしなかった。転移前は学校に行かず引きこもってゲームばかりしていた俺だ。急に口が達者になるわけではない。
それに、俺は人に全く好かれない。
学校ではイジメに遭い、親からは蔑まれている。きっと俺の何かが悪くて、人を不快にさせてしまうんだろう。
だから、シャンカと仲良くしようとすると、かえって嫌われるに違いない。元の世界での実体験から、俺はそう確信していた。
そして、ビジネスライクな距離感のまま旅を続けて…
ついに魔王を倒した。
王都に帰還した俺は、魔王に勝ったことで元の世界へ帰還し、蘇生できることになった。
剣聖のスキルは、シャンカに託してきた。
そうして俺は帰還し、やり遺した積みゲーを消化する日々に戻った。
だが、何か物足りなかった。
怪物達と戦い、その戦果を褒め称えられたあの冒険は、間違いなく俺にとってもう一つ現実だった。
心に空いた穴を塞ぐようにゲームに没頭する日々。
だがある日、俺のスマホに一通のメッセージが届いた。送り主は……、なんと俺にスキルを与え転生させた女神だった。
『勇者ユウキさん、元気にしてますか?あの世界の旅を、小説として自動執筆するオートマトンを作ってみました。よかったら読んでみてください』
まあ退屈だし読んでみるか。
『第一章 剣の勇者の冒険譚』…。
異世界での俺の冒険が、淡々とした文章で綴られていた物語というより説明文だ。起こったことを情緒の起伏なく書き起こす説明文。
俺はそれを全て読み終えた。魔王を倒した俺は、帰還後に勇者として伝説に名を残すらしい。
なるほど勇者か。確かにあの世界の俺は周りにそう見えたかもしれない。
だがそれは、別にまた死んでもいいや、という自暴自棄な諦観と、己のスキルの強さに根付いたものでしかなかった。
それらを失くした今、ユウキという名にそぐわない引きこもりへ逆戻りしていた。少しは強くカッコよく生きれるんじゃないかと期待していたが、そうでもなかったのだ。
ん?第二章があるぞ。
『第二章 想い残した賢者の日記』
…俺が去った後のことか?読んでみよう。
『ユウキ君との二人旅が終わった後、私は王都で次期魔法皇となるために猛勉強していた。政治の勉強楽しくないよぉ……。ただの魔法オタクだった私がどうしてこんな目に……』
これは…?誰の視点の文章だ?
俺との二人旅ってことは、シャンカの視点か。
『だけど悪いことばかりじゃない。前までの私は、懐が寂しくて、古びたボロい魔導書を買うのが精一杯だった。だけど今は新しくてピカピカの魔導書を好きなだけ買える。名誉と実力を手にしたからだ』
元気そうで良かった。
『ユウキ君はよその世界に還ってしまった。ユウキ君にお礼を言いたい。私に賢者のスキルを覚醒させ、心身ともに成長させてくれた、大好きなユウキ君に』
…え?
『大好き』…?なんて?なんて書いてた?
ああ、Likeの方か。そりゃそうだ。それ以外無いな、現実的に考えて。
『本当ならユウキ君にはこの世界に残って欲しかった。そしてずっと私のそばにいてほしかった。自分に自信が持てなかった私を、褒めて肯定してくれた彼がそばにいれば、こんな辛い寂しさを感じることは絶対になかった』
褒めて肯定…?
ああ、そういえばあったな。シャンカが自信を失って自己卑下していたとき、彼女の強さを客観的に評価して立ち直らせたことがあった。
ゲームのキャラの性能を分析して戦略を組むのには慣れていたから、同じことをしただけだ。
『だけど後悔は先に立たない。あのとき私がユウキ君を引き止めていたら、彼は残ってくれていただろうか。あー、寂しくて仕方がない。会いたい、会いたいよ…』
……こんな風に思われていたのか。思えばあの時、誰も帰還する俺を引き留めようとはしなかった。
きっと俺が次の魔王にならないかとヒヤヒヤしていたんだろう。その空気は伝わっていた。だから去るのに悔いはなかった。
魔王すら倒す力を得た異世界人が、そのスキルを現地人に託して去っていってくれるなら、きっと誰も不満はなかったのだろう。
だけど、もしもシャンカに引き止められていたら?
……考えてもいなかった。
俺のスキルはシャンカに託した。だからもう俺に用はないとばかり思っていた。
シャンカは俺のスキルじゃなく、俺に残ってほしかった?
もしも、そう言ってくれていたら。
俺は積みゲーの消化に勤しむことなんて捨てて、シャンカの傍に残ったかもしれない。
なら、なぜシャンカは俺を引き留めなかったんだろうか?
『だけど、私はユウキ君を引き留めなかった。彼には彼の、元の世界での生活がきっとあるのだから。ユウキ君はとても賢かった。だから、きっと向こうの世界ではモテモテなんだろう』
賢くないよ!?モテたこと一度もないよ!?
ゲームの知識だけはあるから、なんかゲームっぽいシステムが雑に組み込まれたあの異世界ではステータスオープンを始めとしたいろんな攻略法が通じたってだけだ。
『ユウキ君の元の世界がどんなところか、私は全然知らない。一度聞いたことがあったけど、「嫌なところですよ」と一言。それっきりだった。きっと触れられたくないことだったんだろう』
あー、あの時か。会話広げようとして失敗したときだ。羞恥心で頭が割れそうになる!
『こうして思い返すだけで涙が溢れてくる。どうして私は魔王と戦う勇気は持てたのに、この恋心をユウキ君に伝える勇気は持てなかったんだろう。後悔がいつまでも消えない』
恋心……!?
え、えぇ!?シャンカって俺のこと……そういう意味で好きだったの!?
全然知らなかった!!
『だけど今日、魔王に次ぐ新たな敵が現れた。魔王が封じ込めていた、地底からの侵略者だ。地底人は次々と村を襲っているらしい』
なぬ…?新たな敵が出たのか!
『私は王様に命じられて、地底人の討伐に行くことになった。賢者と剣聖の2つのスキルを持つ私なら千人力だ…とのことらしい』
第二章ってこのことか。
シャンカ、新しい戦いの旅に出るんだな。
『はぁ〜…。一人旅か。気が重い。戦うだけなら全然平気だけど、せめて隣にユウキ君がいてほしい』
戦力なら十分だろうに、それでもか…?
『そうだ、ユウキ君のぬいぐるみを作ってから旅に出よう。それをユウキ君だと思って一緒に寝れば、少しは寂しさが紛れるかもしれない』
一緒に寝るって…テディベアみたいなもんか。
『ユウキ君を象ったぬいぐるみを、寂しさを紛らわせるときに使うのは、すごく罪悪感があるけど……、勅命とはいえ一人旅だよ!?それくらいの不道徳は許されていいんじゃないかな!?』
不道徳?不道徳って何が?よく分からない。
『そういうわけで、旅の支度は終わった。あとは王都いちの裁縫屋さんがユウキ君ぬいぐるみを仕上げるのを待つだけだ。それが終わるまでは、どれだけ急かされても絶対に腰を上げられない』
それそんなにウェイト重いタスクなんだ!?地底人に村が襲われてるんだぞ!?現地の人々が心配じゃないのか!?
『向こうの人達には悪いけど、私が寂しさで壊れないようにするため、そして日々の欲求を発散するための必須アイテムだ。悪いけど、これだけは譲れない』
知って尚…!ど、どんだけ俺のことを…!?というか欲求を発散ってなんのことだ?
ページはそこで終わっていた。リアルタイムで今、旅が進行中ということか。
俺はサイトをブックマークし、シャンカの旅を見守ることにした。
……この世界で、いや俺の人生で。
唯一、俺を好きだと言ってくれた人だから。
共に魔王と戦った女賢者が俺に片想いしてたと知ったのは、元の世界に還った後だった タマリリス @Tamalilis
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