高野書店
六塔掌月
本文
僕は休日の朝にふと思い立ってドライブに出かけた。隣の県にまで進み、大きな三階建ての本屋を見つけたところで、そこの駐車場に車をとめることにした。看板には高野書店と出ていた。まだ午前中のことだった。
僕は店に足を踏み入れて適当に書棚を見て回った。並べられた本の背表紙を見ているうちに僕が発見したのは、奇妙なことだが、そこにある本のすべてがキメラ状になっているということだった。
たとえば適当な文庫本を手に取って表紙を見てみるとチャンドラーの「ロング・グッドバイ」だったが、その本は途中で切り裂かれており、別の本が何らかの方法で接合されていた。後半はヘミングウェイの「武器よさらば」だった。「私」という一人称だった小説の主人公は途中で自分のことを「僕」と呼びはじめた。そして主人公の探偵は犯人を追うのを物語のなかばですっぱりと諦めて、所属していた軍から脱走して恋人とスイスへ旅行をはじめた。僕は「武器よさらば」はそれまで読んだことがなかったので、へえ、と思った。
この本屋は本を大切に扱っていなかった。たとえばある壁には二つの書棚に挟まれる形でコーヒーの自動販売機が設置されていたが、それは見たことがあるタイプで、豆から挽いてくれるやつだった。安い料金の割にはそれなりにおいしく、硬貨を入れると三十秒ぐらいで紙コップのホットコーヒーが出てくる。もちろん客は店内を自由にふらつきながらそれを飲んでいいのだ。店側は本がコーヒーで汚れるのをまったく気にしていないようすだった。
僕はその姿勢を気に入った。
レジのカウンターに中年の男性客が本を一冊持っていった。僕はそれを観察することにした。店員はその本を受け取り、宙に持ち上げると、じっと表紙を見つめはじめた。ふつうなら本のバーコードをスキャンしたり料金を要請したりするはずだが、彼はただ本を掲げてじっと見つめるばかりだった。
「ご注文は?」
店員がそう言うと男は答えた。
「この本の『二〇八号室』っていう短編だけを十本繋げたやつがほしい」
店員は黙ってうなずくとどこかに消え、しばらくしてから同じ本をたくさん抱えて戻ってきた。彼はそれらをカウンターの上に並べると裁断機を使って切り始めた。慎重でていねいな仕事ぶりだった。店員はすべてをすっかり切り終えると、それぞれの紙の山から一部だけを抜き取ってひとつの束にし、透明なカバーに包んだ。彼は次にカウンターの台の下から白い直方体の道具を取り出した。プラスチック製で、真ん中に太い溝があった。店員は紙の束――おそらく「二〇八号室」だけを十本まとめたやつ――を机の上でトントンと音を立ててページの端をそろえると、白い道具の溝につっこんだ。
「しばらくかかるよ」
沈黙の一分間が過ぎ去った。ブザーの音が鳴って、店員が道具の溝から紙の束を取り出した。パラパラとページをめくる。どうやら紙の束の長辺が
「九千円だよ」
男は黙って一万円札で料金を支払った。店員から千円札とその場で作られた本を受け取る。
僕はそこで男に話しかけてみた。
「なぜあなたは同じ短編ばかりを綴じるのですか」
「そりゃ『二〇八号室』が好きだからだよ」
「でも別に十本もつなげて製本しなくても、元の本のやつを何度も読み返せばいいじゃないですか」
すると男は肩をすくめて答えを返した。
「本に線を引くんだ。書き込みもする。そのときの気分や物の見方によって線を引く箇所や意味、あるいは書き込む内容は異なってくるからね。たくさんまとめたやつがあると便利なんだ。それと一本はまったく書き込まないやつも欲しいんだよな」
僕はなるほどと思った。男はそれだけ言うと店から出て行った。たぶんどこかで「二〇八号室」をじっくりと堪能するのだろう。
僕は自動販売機でホットのカフェオレを購入すると、それを片手に店の二階へ上がった。
本屋にはあちこちに椅子が設置されていた。どこででも本を試し読みできるようにという配慮だろう。
僕は美術書のコーナーにいき、
僕はカフェオレのカップをゴミ箱に投げ入れると、店内をうろついた。
キメラ状の小説が並んだコーナーにはユーチューバーと
「あんた、スカートを
突然背後から声をかけられたので振り向くと、そこには一階で見た店員がいた。オールバックの髪型をした中年の男で、眼鏡をかけている。体型はふくよかな方で表情は穏やかだった。ただ低い声でぼそぼそとしたしゃべり方をしていたので、僕にはその店員がなんだか不気味に思えた。
「スカートがどうしたって?」
僕が問うと店員は黙ってすっと腕を上げた。その手の人差し指は三階へ上がる階段を示していた。僕は何がなんだか分からず、店員の顔を見た。彼は大切な啓示を民衆にさずける古代のマヤの司祭のように小声でささやいた。
「上がって右の端の部屋だよ」
彼はそれだけ言うと一階に戻っていった。僕はしばらく呆然としてその場に立ち尽くしていた。だが結局は三階へと昇る階段に足を向けることにした。階段は木製で、僕が一段昇るごとにギシギシと音を立てて
三階には小部屋がいくつも並んでいた。ドアには小さなガラス窓がついており、中が見える。階段を昇ったところにある部屋の中を覗くと、中には木製のテーブルが一つと椅子が四つあった。そこにひとりの男が座って本を読んでいる。隣の部屋には男女のカップルがいて、隣り合って座り、
僕は店員の言ったことを無視してよかった。でも僕の足はふらふらと右の端の方へと引き寄せられていくのだった。僕は通路の一番端までやってくると、そこにあった部屋の扉のガラス窓を覗いた。
中には三十代なかばの夫婦と思しき男女と、ひとりの子供がいた。足元まであるスカートを履いた人物がひとりいて、よく見るとそれが男だった。
僕はガラス窓から一家のようすをじっと眺めていた。
やがて子供が僕の存在に気がつき、こちらを指さしてきた。それで男と女も僕に気がついて、椅子から立ち上がり扉を開けた。僕はどうしたらいいか分からず、その場に突っ立っていた。
男が言った。
「ようこそ。あなたのことをお待ちしておりました」
もちろん僕は奇異に思った。ただ僕を迎える男と女の笑顔がとても自然で
「お昼ごはんにしましょうね」
女はそう言って隅に置かれた鞄から弁当箱を取り出して、テーブルの上に置いた。
「いただきます」
男と女はそう言って両手を合わせた。すると女の子もそれを真似て、一拍遅れていただきますと声を張り上げた。僕もそれを見て、慌てていただきますを言った。
そう言ってしまうとサンドウィッチに手を伸ばさないわけにはいかなかった。僕はひとつ取ると口元に運び、一口
僕はサンドウィッチを三つ食べた。それから思い切って疑問を口に出してみた。
「なぜあなたたちは僕を歓待してくれるのですか?」
すると男と女は顔を見合わせた。次に男は魅力的な笑みを浮かべてこちらを見た。
「私たちはあなたをずっと待っていたのですよ、マサキさん」
僕は自分の名前を言い当てられたことに驚き、たじろいだ。なぜこちらの名前を知っているのかと僕は声に出して男に問うたが、そのとき足元から送られてくる視線に気がついた。
女の子だった。女の子は一冊の本を胸に抱いてこちらを見つめているのだった。
「ねえ、この本、読んで」
僕は男の方を見た。すると彼はテーブルに頬杖をついて興味深そうにこちらを見ていた。彼は無言で手のひらをこちらに向けて、どうぞ、とジェスチャーで示した。気がつくと女の子は横にあった椅子を僕の椅子にくっつけて、そこに座り、こちらに体を寄せていた。
「ねえ」
僕は深く息を吸って吐いた。仕方なく女の子から本を受け取ると、彼女と身を寄せ合って二人で左右から本を覗き込みながら、朗読することにした。表紙を確認すると題は「大きな木」とあった。その本は判型の大きなもので、開いてみると、絵も文もふんだんに盛り込まれていた。女の子は大きな瞳で興味深そうにページ上の挿絵を見つめていた。
僕は朗読した。
「大きな木があった。とても太い、人が二十人も手をつないで囲まなければ一周できないほどの太い木だ。木は村の中心に立って、長い間、それこそ何百年もの間村を見守ってきた。人が生まれるのを見、人が育つのを見、人が老いて亡くなるのを見てきた。木は賢者だった。あるいは神でもあった。
村人たちは木をあがめてお供えものをした。ある者は塩をたっぷりすりこんだ握り飯を木の前にささげ、ある者は熟した柿を切り分けて供えた。ある者は日本酒を木の周りの土にまいた。そうやって村人たちは木にたくさんの贈り物をしたが、返礼といえるようなものは一切期待していなかった。村人たちはただ木のことが好きで、一緒にいれるだけで満足だったのだ。木と村人たちは友人だった。あるいは家族とも言えた。村人同士は会えば木について話し、木への贈り物やその計画について語ることで大いに盛り上がり、仲良くいることができた。
ある晩、村のひとりの少女が夢を見た。まだ若い、大人になる少し前の年齢の娘だ。少女は夢の中で大人の女性と会う。大人の女性は非常に髪が長く、女にしては背が高かった。成人した男と比べてもさらに高く、それが異様な感じがする。
女性は言った。『やがて
少女は朝を迎え、夢のことを両親に話した。しかし両親は信じなかった。少女は村中に夢の話を伝えてまわったが、誰も信じなかった。
少女が戸惑いつつも村の中心の木のところへ行くと、そこには大きな蛇が木の幹に絡んでいた。蛇は木を登り、高い位置の太い枝にまとわりついた。それで少女は夢の女性が木の化身であるという事実に気がついた。
蛇はやがて木から降りてきた。少女は蛇の後ろをついて回った。蛇は東の山へと進んでいったので、少女も山を登っていった。それは実に険しい道のりだった。少女は生まれてこのかた村から離れたことがなかったので不安だったが、それでも山道を歩き通した。足がまるで石になってしまったように感覚がすり減り、鈍い痛みだけがくりかえし生じてきた。
少女は蛇を追って東の山を越えた。街が見えた。そこへたどり着く。街に入ったところで蛇は親しげに少女の胴体に絡みついてきたが、少女は気にせずに街中を歩いた。するとたちまち周囲に人だかりができた。彼らが言うには、蛇と友達である娘というのは神の使いである証らしい。それで少女は詳しい話を人々に聞いてもらうことができた。私の村にある木を切り倒して船を造ってくれる人はいないだろうか?
話は円滑に進み、七人の大工が少女について村へ行くことになった。少女は宿を貸してもらい、休んだのちに出発することになった。また山を越える。
一行は無事に村に着いた。少女はふたたび村人たちを説き伏せてまわった。今度こそは説得は通じ、村を挙げて木を切り倒し、船を造ることになった。村人たちは木の周囲に集まり、一晩中
村人と大工たちは木を切り倒した。それだけでは材木が足りなさそうだったので、村の周囲にある木々も伐採した。複数の木の種類からなる材木でひとつの船を造る計画だった。
日数をかけて彼らは一隻の船を造った。村人が全員乗れるだけの大きな船だ。完成したときには誰もが大きな事業を達成した誇りと喜びに満ちた顔をしていた。今や神は転形し、一隻の船になった。これは自分たちの仕事の成果だ。
そして完成の翌日から大雨が降り出した。あらゆるものが水浸しになり、畑からは水があふれ、近くの川がついに
村人全員が船に乗り込んだところで今やすべてが水に覆われた世界が現出した。船は水に浮かび、波の上を
僕はそこで紅茶の入った紙コップを手に取り、
隣の女の子が早く読んで、とせがんできた。
僕は朗読を再開した。
「アリスは立ち上がった。スミス兄弟をぶっ殺そうと思ったのだ。父親の部屋に押し入り、サブマシンガンを手に取る。肉厚のナイフも持ち出す。アリスは思う。あいつらは私に恥をかかせやがった。この私に恥を。絶対に許せない。
アリスはスミス兄弟のいる家に電話をした。兄のバイロンが出た。弟のマイクはいるかと聞いてみる。いるらしい。アリスはそこで電話を叩き切ると、表に出た。すでに全裸だった。血で汚れるから服はいらないのだ。服は自分の部屋に置いてきた。アリスは重いサブマシンガンを肩からかけ、左手にナイフを持っていた。
アリスは走った。一人の通行人が目をむいて裸のアリスを見たが、もちろん無視して彼女は走った。アリスは全力で駆ける。死へと向けてまっしぐらに駆ける。
スミス兄弟の家にたどり着いた。玄関のインターフォンを押して、アリスはすかさず扉の横にはりつき、待った。インターフォンでの会話が成り立たず、家人が扉を開けて出てくるのをただ待った。荒い呼吸をくりかえす。やるんだ。私はやるんだ。
扉が内部より開いた。アリスは扉に隠れる格好になった。誰もいないのを見てとって家人が扉を閉めようとしたところを、アリスは自分の側のノブを握って止めた。すかさず姿をあらわす。相手はスミス家の父親らしき中年の男だった。彼に向けてアリスはバースト射撃をおこなった。射撃の反動で全身がガクガクと揺れ、数発で引き金を止めて姿勢を取り戻し、また撃つ。父親は腹に弾を受けてのけぞり、家の中へもんどりうって倒れた。好都合だった。アリスは地面に置いていたナイフを手に取ると、自分も家の中へ入り、扉を閉めて鍵をかけた。一応倒れた男に向かってさらに弾を撃ち込んでおく。流れ出した黒い血がのっぺりと床に広がっていくのが見てとれた。間違いなく死んだろう。
どこだ。スミス兄弟はどこにいる。
アリスは落ち着いて考えた。玄関はそれなりに広く、射撃に適している。少なくとも家人のもう一人は今の音を聞いてここへやってくるはずだ。そいつを撃とう。
思った通り、スミス家の母親と思しき人物がやってきた。母親が立ち止まって事態に絶望し、悲鳴を上げたところを、アリスは腰だめにサブマシンガンを構えて正確に射撃した。弾は逸れず、すべてが母親の体に食い込んだ。彼女は血を吹き出して倒れた。人を殺すのは簡単だとアリスは思った。でもあれは標的ではない人物だ。自分はスミス兄弟を殺すのだ。
マガジンを新しいものに交換した。
アリスは慎重に二階へと上がった。狭い踊り場でスミス兄弟に遭遇するとまずい、と彼女は思った。返り討ちにあうかもしれない。アリスはそれを警戒しながら二階へ上がり、廊下に出た。
廊下は長かった。兄のバイロンが奥の扉から顔を覗かせた。アリスはすかさず銃を構えて、撃った。この距離では当たらないかもしれない。しかし扉の奥に引っ込まれて錠をかけられるよりはいいという判断だった。ある程度連射したあと、アリスは扉に向かった。
しかしアリスはそれを予期していた。すかさず後退し、腕に向けて銃撃する。それをすぐに終えて、部屋につっこんだ。中には兄のバイロンと弟のマイクがいた。アリスは一度、引き金を引きっぱなしにして
結局、彼らは蜂の巣になった。二つの肉体は大量の鮮血を流して床に倒れ込んだ。アリスはスミス兄弟の心臓の鼓動が止まったことを確認し、満足そうに深く息を吐いた。
アリスは玄関に戻ってそこに置いていたナイフを手に取り、スミス兄弟の部屋にふたたび入った。バイロンの首を苦労して切り取り、マイクの首も同様に切り取る。アリスはスミス兄弟の胴体を隣り合わせに並べて、壁によりかかる形で座らせると、マイクの頭部をバイロンの首の上に載せ、バイロンの頭部をマイクの首の上に載せた。芸術作品の出来上がりだ。彼女はそれを見て嬉しくなった。
アリスは家に帰った。幸運なことに帰りには目撃者はいなかった。アリスはシャワーを浴びて全身にこびりついた血を洗い流すと、サブマシンガンとナイフの汚れを取り除き、父親の部屋に返しておいた。
その後、アリスは捕まらなかった。行きのときの目撃者が、自分はゴリラのような頑強な肉体をした男が銃をかついで走るのを見た、と証言したのだ。どうしてかは分からないが彼はそのような勘違いをしたのだ。またスミス兄弟の行為は陰湿なものだったから、学校のクラスメートの誰もアリスが彼らから害を受けたことを知らなかった。つまり彼女が疑われる理由はどこにもなかったのである。
アリスは殺人に成功した。おめでとう、アリス。読者よ、これはそれだけの話である。では」
僕は話の進行と結末に混乱した。どう考えても途中から別の話にすり替わっている。しかし僕の隣の女の子は喜んだ。これはきっと、村人たちの造った船がどこか新たな陸地に無事にたどり着き、そこで暮らしたということなのだろうと彼女は言った。木の
僕は「違う」と言った。物語というのはそんな風に無茶苦茶な展開をするものではない。物語には物語の論理というものがあって、それに沿って進行するものなのだ、と僕は彼女に教えようとした。この本はきっと別々の二冊の本から無理やり接合されて作られたものなのだろう、と僕は主張した。
しかし女の子は僕のことを怖いと言って泣き出した。素敵なお話だったのになぜそんなことを言って否定するのか、と彼女は涙ながらに訴えた。彼女の母親と思しき女は「あらあら」と言って事態を興味深そうに見ていた。男の方も同様だった。彼らは自分たちの子供が泣いていても気にしないらしい。
それで僕は仕方なく女の子を抱き上げて、自分の膝の上に乗せて頭をなでてやった。女の子は嫌だと首を横にふったが、次第に僕の慰めを受け入れていった。彼女は泣き止むと僕の膝の上で寝入った。僕は身動きが取れなくなってしまった。
「ちょっとお手洗いにいきますね」
女がそう言って席を立ち、部屋から出ていった。三分後には男の方も「一階でコーヒーを淹れてきます」と言って離れていった。やれやれ。自分の子供を他人に預けておいてよく平気なもんだ、と僕は呆れた。
しかし一時間経っても男と女は戻ってこなかった。女の子が目覚めたので、僕は彼女の手を引きながら一階に降りて、カウンターにいる店員にたずねた。この子の母親と父親が部屋に戻ってこない。スカートを履いた男とベリーショートの髪の女なのだが、あなたは見かけなかったか。
「そいつらなら店から出ていったよ」
なるほど。店から出て行った。
その後の自分自身のことは僕にもよく分からない。すべてが成り行きのままに進行していった。
僕はその店で適当に何冊か本を買うと、女の子を一時的に預かるつもりで自宅に帰った。女の子は両親を失ってもまったく動揺していなかった。それどころか僕によくなついたし、僕の家での生活にもすぐ順応した。女の子は高野書店のキメラ状の小説を朗読してもらうことを好んだ。それで僕らは週末には必ず高野書店に向かい、そこの三階の部屋で本を読み、気に入ったものがあれば購入するという生活を続けた。高野書店に向かう途中でサンドウィッチを購入して持っていくのが常だった。
もちろん僕はそうした生活を続ける中で女の子の両親を探した。しかし彼らは見つからなかった。女の子はそんなことは重要ではないと言った。そう言い切られると、僕もだんだんとそんなことは重要ではないのだと思うようになってきた。
女の子は七年後には美しい娘に成長した。女の子は自然と僕のことを好きになり、恋をした。僕もまんざらではなかったから、連日ベッドで愛し合った。やがて僕らにも娘ができた。彼女を育てる過程で僕は自然と髪が伸び、ロングスカートを履くようになった。今や妻になった女の子は僕の姿を見て、美容院に行って髪をばっさり切った。彼女は男のように非常に短い髪になった。
僕ら一家は週末にはいつも高野書店に行く。高野書店の三階の右端の部屋をたずね、そこにとどまって遊ぶ。本を読み、朗読し、昼食を食べながら話をする。僕らはとても幸福だ。娘も成長し、だいぶ大きくなってきた。
さて、最近僕と妻は次第に何かを待ち受けているような気持ちになってきた。何かとても大切な用事が待ち受けているような感じがしきりにするのだ。言ってみれば定年まで勤めた会社を退職するにあたって、自分の仕事を他の人に引き継ぐ必要があって、そのための業務のノウハウを準備しているような気持ちになってきた。これは一体何だろうか。よく分からない。でもそのときがやって来たら、僕らはきっと何のことだか
僕ら一家は週末にはいつも高野書店の三階の部屋に行く。
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